クトゥルフ神話TRPGヨタ話#42~クトゥルフの呼び声TRPGセッションレポート「腸(はらわた)の樹」中編~

 いあ! 汝は帳を覆すもの、偽りの衣の下に強壮なる姿を隠さん。

 力子の首に食い込む爪を目撃して、仰天した浩は彼女を揺り起こす。力子が目を開くと、輝く鉤爪はスウッと敷布団の下へと沈んでいった。
 一方、神無月の読んでいた資料はいずれも呪術的、オカルティックな内容であり、何を意図して亮吉がこれを所持していたのか、まったくの理解の範疇を超えていた。また、走り書きには、不浄な書物として知る者ぞ知る『ポナペ教典』からの出典が指示されていて、先ほどの現象と合わせてみると、どうも昼返の裏では、奇妙な、名状し難い何かが潜んでいるのではないか?
 調べてみる必要を感じた五人は、もう一度亮吉の部屋を捜索してみる。その結果、巧妙に書物や棚の影に隠された、亮吉のものと思われる手記が発見された
 内容はまとまりのない、散文的なもので、他者が読むことを意図した文面ではなかった。ただ、そこに書かれている迫真の筆致と、錯乱した緊迫感は本物であった。

 これが昼返を統べるものの宿命というなら、私はいかなる利益を投げ打っても己の境遇を呪おう。
 父によって訪れた向こう側と、そこで出会った彼らのほんとうの姿を目にして、どれほど踏み入らずに済むことを願ったことか。しかし、今や昼返の秩序と維持は彼らの力なくしては成り立たぬ。私が妻を娶れたのも、彼らの助力あってであったことを認めねばなるまい。
 彼らと相対するために、門を閉じる術を怠ることまかりならぬ。すでに黒峯の一族は後戻りのできない所まで染まってしまった。ならばせいぜい、利用し操るまでのこと。
 いあ! 汝は帳を覆すもの、偽りの衣の下に強壮なる姿を隠さん。

 今日も生まれた畸形児を引き取っていった。
 彼らは畸形児を育てるという名目だが、私は知っている。
 彼らの人数は一定であり、それはきっと私の父の代、祖父の代から変わっていないはずだ。

 役所と警察の連中といざこざを起こした。
 凡俗が。彼らと私の仕業を調べたところでわかろうはずがない。
 しかし、手は打たねばならない。

 これ以上、人口の辻褄合わせはできない。
 戸籍係と戸籍簿の場所を指示しておいた。
 野ウサギや狐では要求に足りなくなってきているようだ。

 護法が消えた。
 麻子が持ち出したに違いあるまい。
 なんということをしてくれたのだ。これで、門は新月の度に開かれることとなろう。
 私ももうおしまいだ。今まで門を己の都合のために利用した私を、彼らは許すまい。


 この、精神的平衡を失った文章の意味について、当時の記憶を紐解いてみても、心当たりのある者は誰もいなかった。ただ、いくつかの点では、昼返在住の人間や、K村で調べてみれば、詳細を探れそうではある。
 例えば、美江を娶った時の話だ。彼女はS郡の良家の娘であり、いかに栄えていたとは言え昼返にそう嫁入りするような立場ではなかった。キトによると、亮吉から強く求められてのことであったが、キトも、そして美江でさえも不可解な力によって結婚した、としか思えないそうだ。美江が亮吉に望まれたのは情愛ではなく屈従であり、結婚生活に幸福など微塵もなかった、とキトは断言する。
 もう一つは戸籍係の件だ。人口の辻褄合わせと、「指示しておいた」とは何事だろう? よもや、法に触れるような仕業をしでかしていたのか?
 また、捜索によって気付いたことがある。棚の中から、数冊の書物がすっぽりと抜け落ちているようなスペースができているのだ

 力子の見た夢についても、あまりに真実味に溢れ、タイミングから考えても看過できるものではない。一度墓地に赴いて、美江の埋葬された墓を確認しに行くことにした。
 再度長い階段を登り、神社の境内に出たところで、埋葬した時には気付かなかったものがあった。
 本殿の手前に、一本の大きな樹が立っていたのだ
 名前も定かでないこの木には、その昔、亮吉と美江の娘麻子との思い出があった。麻子は美江の方針で昼返の外にある学校に通い、近代的な教育を受けていた。が、ある時を境に精神を病んで、以後は失踪するまで昼返で生活していた。歌や押し花など趣味に通じる彼女は、しばしば五人の遊び相手になってくれた。が、どこかしらその美貌や発言には、うっすらとした狂気と薄気味の悪さが感じられたものだった。
 そんな彼女が、境内の木を指差して言ったのだ。
 あの樹は、腸(はらわた)の樹と言うのよ
 木の実は黄疸のような色の、分厚い皮に包まれているけれど、その中には綺麗な薔薇色が隠されている、と麻子は唄うように教えてくれた。もっとも、実際に実を割ってみたところで、そんなことはなかったのだが。試しに多坂が木に登ってみても、この時期木の実はついていないようだった。
 麻子は、腸の樹の名前を亮吉の前で言ってみると面白いことになる、と五人に吹き込んでいた。試してみたところ、亮吉はひどく狼狽し、怯えていた様子を見せはしたものの、期待していたような面白さとは言い難かった。ただ、麻子は父のうろたえぶりを、心の底から愉快そうに眺めていたものだ。どうも、今思い返してみると、異常だったのは亮吉だけでなく、麻子も相当だったらしい。

 樹から神社へ目を移した時、力子が声を上げた。神社の前にある石が、夢の中で、美江が乗せられていたものとまったく同じだったのだ。その石は成人の腰程の高さで、まるで物を乗せるためにそうなっているような、テーブル状であった。加藤は調べている間、石が外見の割に妙に軽いことに気付いた。叩いてみると、中にかなり大きな空洞があるらしい。試しにひっくり返したところ、この石、テーブルを形作っている部分だけ存在して、内部は完全に空洞のはりぼてのような形状なのだ。その内側で、古びた血の痕を発見された。力子の夢と、亮吉の手記にあった、「野ウサギや狐」という単語が頭をよぎり、不吉な符号に暗い影が差す。
 そんな力仕事をしていると、物陰からじっと凝視する影があった。儀式を取り仕切っていた黒衣の連中が、五人を観察していた。特に危害を加えるようなつもりはないようであるが、神社を調べようという時に監視されているのでは、あまり気分が良くない。神無月と加藤、多坂が彼らに話しかけて注意を引きつけ、力子と浩はその間に神社へこっそりと向かう。
 神無月に何をしているのか問われたところ、発語のそこそこできる者から、神社の雑事でここに来ているという返答があった。確かに、彼らは肉体や骨格の異常で通常の職に就けないため、端辺神社の神主より仕事を与えられている、と昔聞いたことがある。しかし、考えてみると幼少の時もそうだが、神主の姿を見たことは、五人には一度もなかった
 現状、最も怪しい黒衣の連中に、加藤は亮吉の部屋から消えた書籍について尋ねてみる。それに対して何も知らない、と彼らは答えるが、それが嘘であることを加藤は見抜いていた
 一方、浩らは異様な光景を目撃していた。端辺神社の内部には、祭壇はあるのだが、そこにあるべき神像がない。ただガランとした空間があるだけだ。ただ、祭壇のさらに奥、暗がりの中に、壁面に飾られた絵が白く浮かび上がっていた。
 絵は耳の垂れた人物の頭部であるが、目、鼻、口がない。その代わりに、それらを連想させる形で文言が記されている。もっとも、その位置関係はちぐはぐで、かろうじてそう意識できたという程度であったが。その下には、左右に広がる墨のほとばしりと、三角を描くように配置された輪の文様があった。言語学に知識のある力子にも、文言の内容は理解できなかった。
 黒衣の連中が書物の在処を知っているのは確かだが、追求するには材料が足りない。一旦話を切り上げ、目的の墓地へと向かう。ここでも、特に怪しいものは見つからず、美江の墓も荒らされた形跡は見つからなかった。

 昼返と神社の調査を切り上げて、五人はK村へと降る。
 神無月、加藤は役所に向かって戸籍関連の事件を、他の三者は資料館で、正式に残っている昼返の記録を当たってみることになった。
 役所に問い合わせたところ、確かに昼返の戸籍簿は過去に一度紛失していた。それも、戸籍係ごと姿を消したのだ。当時は戦前で不慮の事故への体制ができていなかったため、やむを得ず現地の住人の証言や記録を元にあらためて作り直したそうである。神無月は売り出し中の超心理学者であることを利用して確認の許可を得る。開いてみて、真っ先に気付いたのは、行方不明者数の多さだった。そして、後に照合してわかったことであるが、美江の部屋で発見されたリストと、全てが一致しているのである。
 郷土資料館の方では、K村についての記録中心で、昼返については閉鎖的体質のためか、ほとんど触れられていなかった。端辺神社についても、独自の神を祀っており、K村の北に禅祥寺(ぜんしょうじ)が出来た頃、宗教的な抗争があった、との簡単な記述程度に収まっている。
 この衝突については、禅祥寺の住職に直接聞くことにした。昔、この一帯は端辺神社に祀られていた神を信仰していた人がほとんどであったが、昼返が衰退していくと共に崇拝も薄れ、人の入れ替わりで自然と禅祥寺の方が頼られるようになっていったという。
 禅祥寺には当時の端辺神社と争った記録が残っていた。淫祠邪教の類と排斥を試みたが、排除するには至らず、むしろ寺の方が引き下がる形の、うやむやな決着であった。その時に、当時の住職は端辺神社に趣き、神像を直に見て教義を見聞きした記録があった。
 記録に描かれた神像の姿は、麻薬中毒患者の見る幻影が如き、不浄で、ありえざる邪悪さを内包していた。全身に剥き出しの筋肉のように細い線が無数に走り、手足や指先は悪意を持つ樹木のごとく、異様な角度に湾曲して伸びている。何より恐ろしいのは、腹部に種々の臓物らしき物体が肉と骨に包まれることなく曝け出されていること、そして不規則に配置された禍々しい形状の目や鼻、口が、貌であって貌でない形を組んでいることであった。それも、唇や瞼、小鼻は無残にめくれ上がり、その中から生々しい組織が覗いていた、と記録は語っている。

 神像についての記述を得て、再び探ってみる必要を感じた五人は、端辺神社へ逆戻りする。
 丹念に調べていくと、祭壇の下に数冊の本が隠されているのを発見した。力子の見立てでは、『狂文記(きょうもんき)』という題名で、相当に古い書物のようだ。その割に、中につけられていた付箋は、古びていたが現代的なものだった。
 また、この神社が、大きさに対して妙に狭いことに気づいていた。裏口にあった物置と、祭壇のあるスペースと合わせても、中央に異様に大きな無駄な部分ができるのである。壁は漆喰で塗り固められていて、多坂がその箇所の床下に入って調べてみても、破れるような強度ではない。
 ひとまず書物を回収できただけで善しとするとして、昼返で眠ることは気が進まない。結局、少しでも守りの効果があるかもしれない、と住職に無理を言って禅祥寺に泊めてもらうこととなった。
 夜の間に神無月は狂文記の調査を進める。付箋のあった場所には、次のようなことが書かれていた。

 この世には、“向こう側”との戸口となる場所があり、また“向こう側”が接近する時節がある。
 その戸口を緩めたり締めたりする“覆端の法”をもってすれば、“向こう側”のひとつと、そこに住む者と取引することは不可能ではない。
 “覆端の法”を行うならば、新月の夜にて護法を携え、然るべき呪文を唱えるべし。さすれば、“向こう側”との戸口は思いのままとなろう。


 亮吉の手記にあった“向こう側”“門”、そして“彼ら”とは、この狂文記にある存在だったというのだろうか? 本当に、昼返には、人智を超えた現象が起きていたというのだろうか?
 そして、力子と浩がその晩に見た夢は、またも奇妙なものであった。
 禅祥寺の上空から昼返とK村を俯瞰して見ているのだが、眼下に見える建物は、ことごとく妙な突起物があった。目を凝らしてみれば、それは机や椅子、箪笥などの調度品だった。床板がそっくり外壁となっていて、そこに家具が張り付いているのである。学校などは、積み重なった階層に机や椅子の塊が取り付いているせいで、まるで地獄の針山のようであった。また、井戸のあった場所には尖塔のように突き立った土が漆黒の空に伸びている。
 現在、この一帯は、全て裏表が逆にめくれ上がった状態となっているのだ
 その間を、何かゆっくりと蠢くような者がいた。ぶざまに頭部を重そうに振りながら、そいつは荒神山の林の中を移動して、爪を突き立てては掘り出すと、緑白色に輝く何かを抱え、端辺神社の方へ向かっていった。また、その内の何体かは、なにかを探すように岩をどかしたり、めくれ上がった建物の中を覗いたりしていた。直感的に、五人は察した。彼らは、自分たちを探している
 起きた三人に揺り起こされる直前、浩は川の向こうに、井戸と同じく土の盛り上がった箇所を見ていた。その頂点には、女性らしき神の長い、着物を着た人間が、小さな人形と一緒にひっかかっていた。

(続く)


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