読んだ本#10~ディック先生三連発~

 田舎もんの僕が都心の凄さを実感するのは、「図書館の蔵書すげーなー」って思う時だ。
 TRPGさえできりゃ都会だろーと地方だろーと外国だろうと魔境だろーと気にしない(ただし、気の合ったメンバーと顔を合わせられることが条件だ。私はオフライン・セッション至上主義者だ)僕だが、こと図書館のエキサイティングに関しては、地元とは比較にならない。なぜK市立図書館は県内ナンバー3市の癖して、ああもつまらん並びなんだろう。歩いて数分の所に図書館があると知り、なんとなく立ち寄ってみたら絶版海外小説がズラリと並んでいたりして、興奮のあまり無意味にキュアサニーよろしくガニ股歩きになってしまったもんである。
 んで、僕は本を借りる時、大体三冊の本を選ぶようにしている。
 一冊目は、腰をすえてじっくりと読む中~長編小説
 二冊目は、気軽にサクサク読める短編小説
 三冊目は、長さを気にせずグワーッと読み進められる娯楽小説(要するに改行と余白の多い小説)。
 電車の移動中など、「本を読むぐらいしかやることねえや」という間は一冊目でカバーし、それに疲れてきたら二冊目をちょこちょこつまみ食いしてリラックス、返却期限が迫ってきたら、仕上げは頭をカラッポにして読める三冊目を「おおあと2日で読まねば!」という溢れるスピード感を背景に読み飛ばす。このようなつなぎがうまく行くと、いい感じにスッキリした笑顔で次の本を借りることができる。
 が、一冊目の選択をしくじると、このサイクルはたちまち脆くも崩壊する
 うっかり手に取った本が難文難読、一ページ読破するのに死人も起き上がるような努力を要する大著であったなら、ただでさえ早いと言えない筆者の読書スピードは、『エイリアンVSプレデター』のダッチ=シェーファー少尉の如き鈍足と化す。読書ぐらいしかない電車内でさえちっともページは進まず、次第に書を食む楽しさは義務感へと変じ、目は血走り息は乱れ大地は割れる。大体そうなった場合、二冊目三冊目にはまったく手を触れないまま無常にも返却期限は訪れ、精神的便秘とも言える屈辱感を抱えたまま、カウンターで本を二つの山に分け、「こっちは返却で、こっちは予約入ってなかったら延長でお願いします」と惨めな敗北宣言をすることになる。

 で、最近この悲劇をディック先生にお見舞いされた。
 文章ドラッグというか劇薬の『スキャナー・ダークリー』をカマされた後遺症で、『時間飛行士へのささやかな贈り物』みたいなオレの頭でも多少はワカるよーな話とワカらないよーな話の混在する短編集ぐらいしか触れられない時期を過ごしてから、だいぶ間が空いて「そういえばオレもそろそろディック先生を読まねばならぬ」と無意味な使命感に囚われて立て続けに読んだ。
 その最初の一冊、『ライズ民間警察機構』が、まさにしくじった一冊目であった。空いたブランクで生じた油断が、致命傷である。
 元は中編に加筆再構成を繰り返した作品で、ディック先生もついに完成形を送り出す前に逝去しちまったいわくつきの一品であるが、イヤこれはマジでワケわからん。裏表紙や概略によれば、胡散臭い一方通行のテレポート・マシンに疑惑を抱いて、アナクロな宇宙船で一瞬で終わるはずの旅路を18年かけて遂行する話らしい。テレポート先は素晴らしいユートピアと散々宣伝され、移住する人は後を絶たない。しかし、テレポート・マシンのために親父の会社を潰された主人公はきな臭いものを感じ、唯一の財産である貨物船で、テレポートを介さず目的地に到達することで真相を暴こうとする…うーん、偽りのユートピアと、それに立ち向かう時代遅れの宇宙船とか、まさにオレ好みのテーマじゃないですか(『最後から二番目の真実』でも同じ期待をしてたなあ)。
 と、思いきや、さあ宇宙船が旅立つぞ、と終わった次の章でいきなし主人公は女エージェントとテレポート・マシンに乗ったらドラッグをキメられて、ディック先生お得意のトリップ描写が延々続いた挙句、時間転移で地球に帰って黒幕との決戦を前に、俺たちの戦いはこれからだ! END。これで大体間違ってないと思う。
 なんせ、先生自身が版を改める度に添削を繰り返し、章のシャッフルなども試みられ、それらをまとめ上げる前に亡くなってしまわれたもんだから、斯様に支離滅裂な話になったんだそうだ。解説によると、本作の評価は「ディック秘蔵の作品がついに翻訳出版された!」というより「ついに翻訳出版されちまった!」じゃねえのか、とか。それも読んでみりゃ納得である。
 しかしこんだけ破綻したストーリーなのに読後感は悪くない。曲がりなりにも主人公が騙されハメられラリッた苦労に見合うだけの理解と味方を得られたこと、そしてラストは移民の夢を打ち砕かれ、自分たちを欺いていた連中への戦いに心願することを決意する端役の締める渋み、と希望の抱ける綺麗な幕引きだったからだろう。知人氏曰く「一生かけて自分の墓穴を掘り続けた」と評されるディック先生だが、ギリギリのがけっぷちで希望は捨てていないのを匂わせるところがイイところだ。
「ナチス・ドイツの専横に立ち向かったのは同じドイツ人だ」これはオレ的にかなりの名言。

ライズ民間警察機構―テレポートされざる者・完全版 (創元SF文庫)ライズ民間警察機構―テレポートされざる者・完全版 (創元SF文庫)
(1998/01)
フィリップ・K. ディック

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 やはり僕のような軟弱SFヤロウには、短編集ぐらいがちょうどいい。
 『トータル・リコール』は珍しくディック作品にしてはワカりやすい内容(いや、俺が頭悪いだけか)で、なおかつ高密度の短編集。オレの中で『まだ人間じゃない』とトップを争える
 椎名誠氏が絶賛していた『訪問者』をやっと読めたのは感慨の至り。古き良きSFアドベンチャー的景観に、ディック節のアイロニーを交えた視線を滑らせる語り口は先生の独壇場。何度も繰り返された「偽の情報に支配された世界」というテーマの『地球防衛軍』は同系統作品中でも屈指の爽やかな終わりで、地球人類もまだまだ捨てたもんじゃねえな! とか気持ちのいい上から目線に浸れる。何度読んでも『世界を我が手に』のタイトルとワールドフィクション社の転落、そして暗示めいた最後はええな。
 短編集初収録・未収録作品が多いのも特徴。どれもいい意味でも悪い意味でもブッ飛んでる。超能力者と非超能力者の暗闘を描いた、オチに「うえっ」となる『フード・メーカー』が好き。
 最後を締める『マイノリティ・レポート』は、作品自体はスッキリまとまっているものの、犯罪ゼロ体制を実現した裏で、超能力者に依存しきった思考に染まっている主人公(新任の部下や奥さんまで疑いまくるのを見て、これは主人公死ぬやろなぁと思っていた)ってよーく考えるとかなり救えないな。でも、泥をかぶってでも社会正義のために自分の打ち立てた犯罪ゼロ体制を実証する覚悟はカッコイイぞ!
 しかし、サスペンスの『マイノリティ・レポート』はともかく、『トータル・リコール』はどうしたらこの原作であの顔プシューでシュワちゃん主演の映画になるんだろ?

トータル・リコール (ディック短篇傑作選)トータル・リコール (ディック短篇傑作選)
(2012/08/01)
フィリップ・K・ディック、大森 望 他

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 最後の『ドクター・ブラッドマネー』は長編ながら、心折られずに読み切れた良作だった。
 核戦争後の世界、人々のよりどころはラジオから流れる植民ロケットからの放送だけになっていた…この筋書きだけなら「偽の情報に支配された人間」っぽい。ホント好きだなあディック先生もオレも、などと思ってたら、こっちは核戦争そのものと、直後を描いた作品なので、実情はぜんぜん違う。先生の作の中でも、明確に核戦争を描写したのは、これだけだとか
 放射能や暴徒、奇形動物に怯えながら生活する奴らがまた濃いのなんの。浮気癖のある人妻がヒロインって時点で一味違うぜ。ちなみにヤンデレだ。コミュニティは指導者の女性も地域の維持のためなら処刑(法的な裏付けのある)をも辞さない強面。人々に心安らぐ放送を命懸けで続ける植民ロケットの搭乗者に、全力でそれを維持しようとする誠実な精神科医。一見すると核の災禍を逃れた穏やかな片田舎ながら、その裏ではじっとりと冷たく、陰湿な力学が軋みを立てて働いているのだ。一番親近感を持てたのが、「他人にできることが何倍も時間をかけないとできない」と卑下しながら、戦前のモラルと美徳にこだわり、守り続ける黒人のセールス・マンだった。
 浮気性の奥さんが夫も子供もコミュニティもうっちゃってセールス・マンと共に移住した時、自分たちはコミュニティに縛り付けられて気づかなかったが、世界は思っていたよりもずっとたくましくて優しかった、と知る結末が、切なくも美しい。
 それにしても、ディック先生という人、よくもまあこうもムカつく人物描写ができるもんだ
 過去に放射能事故を招いたブルーノ・ブルートゲルト博士(表題の人物)は重過ぎる自責の念をさっぴいても、迷える人を救うのは自分しかいない、世界なんて自分の意志で滅ぼせる、ウォーハンマー流に言うなら“譫妄状態の救世主”ぶりは思い上がりも甚だしい。
 障害者持ちの超能力者ホッピー・ハリントンに至っては存在自体が不愉快自分はコミュニティの超重要人物なんだから崇め奉られ、世界中の人からも賞賛されて然るべき。そんな小児じみた自己顕示欲に囚われて、殺人を犯し、ロケットからの放送になりかわろうとする。なんちゅうかあまりにも欲望の方向性が直球で、その上超能力をタテに逆らえる奴がいないもんだから、思い込んでるだけの博士よりもタチが悪い。彼の末路には悪いけどザマミロ&スカッとサワヤカの笑いが出てしょうがねーぜ
 定期的に現れ、筆者を理解に苦しめる主張「漫画やアニメ、ゲームは人に悪影響を与える」(こんな危険性より、こういうことを大真面目に言ってるあんたらの方が危険だよ、と思う)が正当なら、こんだけムカつくキャラクターを生み出せる想像力の作者は、一時期口癖であった「思考犯罪」に相当するのではないのかね

ドクター・ブラッドマネー―博士の血の贖い― (創元SF文庫)ドクター・ブラッドマネー―博士の血の贖い― (創元SF文庫)
(2005/01/22)
フィリップ・K・ディック

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