好きな漫画#36~スティール・ボール・ラン~

STEEL BALL RUN スティール・ボール・ラン 24 (ジャンプコミックス)STEEL BALL RUN スティール・ボール・ラン 24 (ジャンプコミックス)
(2011/06/03)
荒木 飛呂彦

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『ジョジョリオン』を読み始めるにあたって、前部である『スティール・ボール・ラン』を一気にラストまで読み通した。

 予感していたように、決してグッドエンドではなかった。ジャイロは死亡、ジョニィはレースから失格。テーマのブレも大きい。レース・バトルだったのがスタンドバトルへ、そして遺体集めへ、と二転三転している。未回収の伏線や矛盾も今までにないほど多いだろう。スタンドにしても既視感のあるものが目に付き、ファンサービスより「ネタ切れか」という受け取り方になってしまう。
 にも関わらず、筆者の中でナンバー2と言えるほど好きな部だったのは何故だろう?(ナンバー1は以前書いた通り5部) その理由は、芯はブレながらも、ブレた先々で起きる物語があまりに苛烈にして鮮烈だったから、という気がする。話が進む内に消えていったテーマも、新たに追加されたテーマも、総合的に見れば歪かもしれないが、個々で見ていればギラギラと宝石のような輝きを放つ出来栄えになっている
 考えてみれば、『スティール・ボール・ラン』という作品そのものが、予測不能のレースのようだった。最初は週刊誌で連載されていたのが、何度かの休載をはさんでスタンドの再登場となり、次には月刊誌に移り遺体集めという、以後の方向性を確立する目的がやっと出てきた。その後の展開も己の自立のために走り続けるジョニィ、納得と友のために戦ったジャイロ、愛国心のためにレースを操る大統領、野心のために暗躍するDio、そしてホット・パンツにウェカピポ、マウンテン・ティム、リンゴォ、スティール氏、ルーシー…多くの選手に刺客、開催者たち…各々の思惑がぶつかり合い、壮絶なドラマを生んでいく。
 少年誌では難しいであろう、月刊誌だからこそ描けた(作中の言葉を借りれば)「漆黒の精神」を含む生き様、そのなんと強烈であることか。これまでのジョジョには無い、極度に先鋭化されたキャラクターが生き、戦うことを許容できた世界であるからこそ、一つ一つのエピソードのクオリティは物凄い。作品と一体になって登場人物の行く末=レースの行方を追い続ける、レースが目的であり手段で置き換わってしまったとしても、そんな息詰まるようなライブ感を味わえたから、筆者は『スティール・ボール・ラン』が好きで仕方ないのだろう。

 『スティール・ボール・ラン』が好きな理由の一つに、ジョニィ・ジョースターの存在がある。
 ジョニィは今までにないジョースター家の一族だった。
 名ジョッキーから半身不随という強烈な挫折を味わっている、ここが大きく違う。他の部のジョースター家が挫折を味わっても立ち上がってきたのに対し、ジョニィ自身は挫折の真っ只中からの出発であった
 希望から絶望へと落下する挫折の恐怖を知っているがために、ジョニィは挫折に弱い。ピンチに陥るごとに絶望する彼を見て、メソメソした主人公、というイメージを持った人も多かろう。
 が、筆者がジョニィを好きなのは、挫折を味わった時はどこまでも絶望しながら、最後には立ち上がる強さを持っているからだ。ジョースター家の一族は強靭な「黄金の精神」を持っている。挫折に対しては独力で乗り越える強さがある。一方でジョニィは、1巻の言葉を思い出して欲しい。「この物語はぼくが歩き出す物語だ。肉体が…………という意味ではなく青春から大人という意味で……
 ジョニィは弱い。肉体的なハンデはもちろん、世間知らずで独りよがりな考えの持ち主である。一人で挫折から立ち上がれるほど強くはない。しかし、親友ジャイロの叱咤、遺体の与えるパワーのような後押しがあれば、必ず立ち上がる。これまでの不屈のジョースター一族に対して、さながら星飛雄馬の如く落ちる時はトコトン落ちるが絶対に這い上がってくる、これもまた立派な「黄金の精神」であり、同時に今までにない人間讃歌の美しい姿を、ジョニィからは感じるのだ。第2部の名ナレーション「まぎれもないヒーロー! ヒーローの資格を失うとすれば闘う意志をJOJOがなくした時だけなのだ!!」に倣い、彼もまたジョースター家の一員であり、また『スティール・ボール・ラン』のヒーローなのである。
 同時に、ジャイロとのコンビで新たな魅力が開花していったことも忘れてはなるまい。一見思慮深いように見えながら、根はシンプルなジャイロ。若者らしい短慮と同時に、複雑でナイーブさを持ち合わせるジョニィ。実に鮮やかで、絵になる対比である。ジャイロの飛ばすギャグに冷静なリアクションのジョニィ、ジョニィの迷いを一喝して道を切り開くジャイロ。力を合わせて刺客を撃退する二人。本当にいいコンビだった。終盤、ジョニィ一人でレースを続けなくてはならなかったことが、残念でならない。ラストシーン、彼から受け継いだニョホホと鉄球に微笑むジョニィが切ない。物語と共に少年期の終焉を飾る、有終の笑顔には心震わせずにはいられない。

 ファニー・ヴァレンタイン大統領閣下も忘れ難いキャラクターである
 やっていることは「自分が悪だと気付いていない、最もドス黒い悪」であるが、他の部の黒幕のように、最低のゲス野郎と断ずるにはどうしても抵抗がある。
 大統領が遺体を求めたのは、ひとえに愛国心のため。己のためのみに弱者を踏みにじるDIOやカーズ、吉良吉影、ディアボロや、人類の幸福、という抽象的かつ独善的な目的のプッチ神父とも違う。「国を愛し、国民を守る」とは紛れもなく善き事である。そして、その動機は家族と国家のために自己を犠牲にした父親のハンカチだった。
 手段はどうであれ、動機と目的は簡単に否定できるものではない。そして、彼の理想は犠牲無くして達成できるものではない。国家安泰を成し遂げるために、他者を利用して害する…これは、大統領に限らず、国家の指導者であれば避けては通れない道だ。その手段の形態が違うに過ぎない。己のために戦っているジョニィと、国家のために戦っている大統領、一概にどっちを善、どっちを悪と定義していいのか?
 土の中で父の遺したハンカチを握り締め、歯を食いしばる大統領の姿からは、そんなやるせない疑問を抱かせる印象的なシーンであった。
 しかしD4Cとラブトレインの難解さはメイド・イン・ヘブンに匹敵するかそれ以上かもしれない。頭の悪い筆者には、17巻で使ったトリックや、ラブトレインの仕組みそのものを理解するまで、何年かかるかワカらん。

 最終回について、首なしDioやシェルターなど、第1部の類似点を指摘する声は多いが、実はそれより重要なのがジョニィとDioのスタンスの対比ではないかと思う
 大統領の願いに対し、「あんたを信じたい」と揺れながらも最後まで拒否したジョニィ。彼はジャイロを喪い、Dioに敗北し、レースにも失格となった。しかし、己の脚で立つ、「自立」を最後には掴み取った。
 一方、「あんたを信じるよ」と大統領を受け容れたDioはジョニィに勝利し、レースも優勝し、遺体を入手したが、ルーシーの機転によって追い詰められ、片脚を失って歩けなくなったことが致命傷となり、破滅する。
 自分で掴んだ道と他人から受け継いだ道。『飢えた者』であったはずのDioが他人から道を譲り受けた時点で、その結末は決まっていたのかもしれない。シュガー・マウンテン曰く「「全て」を敢えて差し出した者が最後には真の「全て」を得る」を象徴する、見事な運命の対比だった。
 ここから先はどーでもいい話だが、ルーシーから首を受け取ったDioを見て筆者の頭をよぎったのは、かのヤンデレアニメ『School Days』の最終回であった。生首にノコギリにラストシーンまで合わせたら、こりゃまさしく「Nice boat.」ではないか。…まあ、最後はboatじゃなくてshipですが。

 実は本作で一番の勝ち組はスティール夫妻ではないか
 ルーシーのキルマークの多さは言うに及ばず、最初から最後まで「レースの成功」からブレずに奔走し続けたスティール氏。夢と希望のために突っ走るこの熱いおじさんが、一番主人公気質な気がする(それに、彼は誰かを傷つけることをしない人だった。主人公でさえ「漆黒の意志」を持つ本作で、この姿勢は非常に珍しい)。それに、ルーシーとの再会と涙(まぁ、後のシーンと矛盾するんだけど)、「ただ新聞に名前が載るのはちょっとうれしいかな……………」とか、いちいち泣けるセリフが多いんだなぁ
 最終回もルーシーのDio殺しに、落馬したジョニィへ「SBRレースにおいては失格となるが一瞬でもこの走る馬にのれば君にはチャンスがあるのではないかね?」と、元騎兵隊の面目躍如であるまさかの名アシスト! 負傷で退場期間が長かったものの、最後の最後でおいしいところをかっさらっていった。
 大統領の陰謀から身を守り、Dioの野心から国を守り、レースを大成功に導いたルーシーは本物の女神だったのかも。その伴侶であるスティール氏こそ、真に祝福された者だったのでは?

 さて、最後に、『スティール・ボール・ラン』のもうひとつ好きな点、それはコミックスのサブタイトルの秀逸さ。「広い広い大草原の小さな墓標」「男の世界」「いともたやすく行われるえげつない行為」「涙の乗車券(チケット・ゥ・ライド)」…名サブタイトルを挙げたらキリがない。そして最終巻は「星条旗よ永遠なれ」…大統領の願いとレースの結末を見事に象徴した、最高のネーミング。
 筆者が一番好きなのは「お金持ちにはなれない」。内容と全然関係ないようで、ちょびっと関係のあるコレをサブタイトルに選んだセンスに乾杯。


STEEL BALL RUN ―ジョジョの奇妙な冒険Part7 コミック  全24巻 完結セット (ジャンプコミックス)STEEL BALL RUN ―ジョジョの奇妙な冒険Part7 コミック 全24巻 完結セット (ジャンプコミックス)
(2011/08/11)
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テーマ : スティール・ボール・ラン
ジャンル : アニメ・コミック

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