読んだ本#43~ゴールデン・マン~

 今回もディック先生の短編集。
 純正のファンタジーも含むバラエティ豊かな話ですが、それだけに面白さもマチマチであります。まっ、面白い話はムチャクチャ面白いので十分読んで損なし。

 ゴールデン・マン

ゴールデン・マン
 18年もの間、ミュータント狩りの手を逃れ続けたクリスは、人間とは明らかに異なる生物であったが、奇形という言葉はまったくふさわしくなかった。頭髪のみならず金色に美しく輝く全身、威厳ある顔立ちとまなざし、たくましい肢体……まるで金メッキしたローマ時代の彫像のような風貌は、野生的な日々の暮らしと相まって、雄々しい獅子のような印象を与えた。
 そして、彼をミュータントたらしめるのはその特殊な知覚力だった。閉ざされた空間の中で、至近距離だろうとあてずっぽうに放たれた銃弾だろうと完全に回避する、読心術さえ通じない、純粋な皮膚感覚のみによる未来予知。クリスにとっては、回避した未来とは「すでに起きた事」なのだ。ミュータント狩りに自首したのは、逃げ切れる未来がなかったから……人間をはるかに超越する危険性を問題視した研究所は彼を抹殺しようと試みる。だが、クリスの脱走を成功たらしめたのは、予知能力だけでなく、生まれ持った既存の能力との組み合わせだった
・ベインズのジョノカが登場した瞬間「あ、この女裏切るな」と確信した。実際そうだった。残念な要約をするとイケメンにコロッと騙された女のせいで周囲が大迷惑を負う話だが、シグルイも根本はこんな感じだったな。
 ミュータントと予知能力者、ディック先生作品の中で幾度も繰り返されたテーマであるが、その都度新しい切り口を提示し、違った物語に仕立て上げる手腕は流石の一言、これだからディック先生はやめられんね。

リターン・マッチ
 宇宙人の開いた賭博場は、まったく忌々しい手段で証拠隠滅される。警察の手入れを悟った途端に、ジェット噴射で中にいる客ごと、証拠を消し去ってしまうのだ。生身の人間では生き残れないやり口に、警察は人間に擬装したロボットを忍び込ませる。普段通り、宇宙人どもは賭博場を焼き払うが、辛うじてロボットは一台のピンボール・マシンを守り抜いていた。
 ピンボール・マシンは地球外にあるイオニアの村落を模しており、その中央には弩砲(カタパルト)が設置されている。ゲームを遊べば遊ぶほどボールは弩砲へと誘導されていき……弩砲は、遊戯者の正面に向けられている
 弩砲を間一髪でかわした者にも、ピンボール・マシンは一度ターゲットをロックしたならば、決して逃がしはしない。それも、ピンボール・マシンらしい、誰も予測しない殺害方法で。
・ジュラル星人もあきれるまわりくど蔵なエイリアンの殺害方法。そりゃーエイリアンの思考なんぞ及びもつかないというのはごもっともですが。エイリアンの経営するカジノで、ガサ入れが入ると賭場もろとも客を皆殺Cというやり口から、『運のないゲーム』みたいなもっと鬱屈した未来人の倦怠とかそういう話かと思っていたのがどえらく予想を外された。
 まあ、こんなヘンな殺害方法を思いつくのもエイリアンとディック先生ぐらいのもんでしょうな。

妖精の王
 ガソリンスタンドの老経営者、シャドラックは豪雨の晩に奇妙な来訪者を匿う。輿を担いだ、常人の半分ほどの背丈しかない、華やかな衣装に身を包んでキイキイ声で喋る一団……彼らは、トロールに追われた妖精の王とその部下たちだと名乗る。
 半信半疑ながら、シャドラックは妖精たちを温かく世話をしてやるが、妖精の王は病に倒れ、亡くなってしまう。生前に妖精の王は部下たちにこう言い残していた。次代の王は、シャドラックを指名すると
 周囲にはおかしくなったと思われながらも、シャドラックはトロール退治のために友人の農場へ向かう。友人から諭され、自分を見つめ直すシャドラックだったが、トロールは襲ってきたのだった、現実に!
・珍しく純正ファンタジーなトロール退治物語。一体いつこの妖精おじさんがアーパー扱いされるのか、現実と幻想の境の見分けがつかなくなって友達を殺(や)っちゃって獄にブチ込まれるんじゃないか、と心配していたのだが(ディック先生だし)丸く収まって一安心。突然の来訪者も邪険にせず、むしろ自然と責任感を持てる性格が『魔法の王国売ります!』と同じくファンタジー世界で尊敬されるためのコツか。異世界転生ばやりの今教訓となるやもしれぬ。

ヤンシーにならえ
 カリストの政治構造が全体主義傾向にあるという。それが有害かどうかは不明であるが、カリスト人はみなそっくりの人間になりかけているのだ。すでにテラからの警官が二人送り込まれているが、先行した彼らと意見を突き合わせてみても、ごく問題の無い、模範的な民主主義としかカリストの体制は思えなかった。しかし、思想統制警察などありもしなければ、自由に不平不満を叫ぶこともでき、秘密のレジンスタンスも存在しない――にもかかわらず、民衆は一党制の社会に暮らし、イデオロギーに染まっている。これは慎重にコントロールされた全体主義国家と同じだ。刑務所には、政治犯が一人もいないのだ
 その秘密は、カリストで絶大な人気を誇るヤンシーなる人物にあった。五十代の温厚で当たり障りのない顔で、あらゆる話題について含蓄ある意見を持っている。しかし、その実ヤンシーは明確な意見を持ちながら、具体性や意味のある内容は決して口にしない、空虚な発言ばかり。そしてカリストの民衆は、自分の意見をヤンシーに代弁して貰うことで政治的意識を持っていると錯覚している。実際には、彼らは無意識にヤンシーに追従し、操作されているに過ぎないのだ。そして、やがては重大な問題をヤンシーが先導してくれると決断を投げるようになるだろう。
 このような人物が存在するはずがない。ヤンシーは、様々な典型的人物に基づいてゲシュタルトを生成した、都合のいい架空の人格だったのだ。
・『最後から二番目の真実』の基となった短編。個人的には「当たり障りなく、誰の心にも知らず知らずのうちに浸透する」よう作られたという、こちらのヤンシー像が大衆心理の空虚と無責任を浮き彫りにして秀逸に感じられた。これが『ディック短編傑作選』シリーズから漏れているとは信じられん。

ふとした表紙に
 オベリスク・ブックスが発行した書籍に、次々と抗議文が舞い込んでいた。ルクレーティウスの『物の本質について』ドライデン訳収録の四行連句が別の意味に書き換えられているというのだ。原稿の正誤照合を最後に行った担当者も、ゲラまで照合したがこんな変更は断じてない、と証言する。つまり、この文章は、最終的に造本されてから書き換えられたということになる。
 これが起きたのは、ワブ革装金箔押しの豪華盤のみだった。装丁に使われたワブ革のワブとは火星に住む生物で、独特の性質を持つ――彼らには、死というものがない。殺すのが不可能に近いのだ。しかも、殺したとしてもその皮は生き続ける。ひとりでに元通りに回復し、復元してしまうのだ。『物の本質について』の不可解な変更も、このワブ革の仕業であろう。何故なら、変更に及んだのは、いずれも生と死や不滅性、来世などワブの性質と相反する事柄について、それも彼ら独自の見解が述べられていたからだ。
・クトゥルフの魔導書もビックリの生きた表紙。それどころか本の内容まで書き換えてしまう。めっけたら確実に正気度損失モンです(しかも内容が書き換わっているのに気付いた場合再度発生する)。オチは本人は楽しそうでしたが、何となく『早すぎた埋葬』になるんじゃないかという予感が……。

小さな黒い箱
『小さな黒い箱』の感想を参照。

融通の利かない機械
 建物に入り込んだ機械は、標的の体重と同じ圧力をかけて鋼鉄の窓枠を曲げ、標的の毛髪――小胞と頭皮の小片付き――を置き、乾いたタバコの粉を二片並べ、標的の声を録音した磁器テープ・レコーダーを再生する。最後の仕上げに、自動作動式のビデオレコーダーの保存部分を破壊し、レンズ・スキャナーの一部分に標的の血液を一滴放出した。
 これで全ての犯行は標的の仕業と間違いなく思い込ませることができる。現在の犯罪捜査は、指紋の除去や改変のために、犯人特定のため無数のデータ(最低九点)の総体が必要になっていた。機械のばら撒いた証拠の総体は、確実に標的が犯人と結論付けることだろう。だが、まさにその時、部屋の主が入り込んできた。やむなく彼を殺害した機械は、小型のポータブル・テレビに姿を偽装する。
 場違いなポータブル・テレビの存在を不審がった私立調査員ビームは持ち帰って解体しようとするも、まったく工具の手を寄せ付けない。こんな金属は他星系から持ち込みでもしなければありえない技術だ。そこに現れたのは、女連れの犠牲者の上司チロル。彼が入り込むと、ポータブル・テレビはすかさずその男の手に戻った。
 私立調査員はチロルを追跡するうちに、女がこの事件を担当する警官の妻であることを突き止め、その口から機械の性質を知る。特定の人間のみ殺害し、場所に応じて適切な他人の仕業という証拠を残す性質を。
・エドワードの奥さんが登場した瞬間「あ、この女裏切るな」と確信した。実際そうだった。証拠を的確に残す殺人機械と、複数の証拠がないと該当者を突き止められなくなった犯罪捜査という合理的に見せかけたイビツな構造は興味深いけど、なんかその辺の話題も『融通の利かない機械』というタイトルもどんどん関係なくなっていくような……。っていうかチロルも大手奴隷斡旋業者の元締めという重要ポストの割に、自ら女を連れて殺人機械を回収するとか自覚がないにも程があるフットワークの軽さである。

 本書の見所は、ディック先生執筆作よりも編纂者のマーク=ハースト氏による『はじめに』を挙げたい。ディックファンが高じてディック傑作選の企画を通してしまった熱烈な支持者で、ディック先生を「フィル」と愛称で呼び、『ふとした表紙に』掲載の雑誌を先生直々に頂戴して「ほかのコレクターにそれを見せたらさいご、撃ちあいがおっぱじまるぞ」と警告された、二週間の旅路で疲れ切ったところに自宅のベッドをさっと提供して自分はソファで寝ていた、表の芝生で起きた喧嘩を止めるためにヒューゴー賞のトロフィーを使った唯一のSF作家という証言(だから木製のスタンドは行方不明になったそうだ)などなど、心温まるエピソードが紹介されている。これほどの愛情を込めた謝辞を書いてもらえる事こそ、作家冥利に尽きるというものでしょう。
 またベスト3にはこれまた収録作と同等かそれ以上に意味深い『まえがき』を加えた。犬用の馬挽肉を買って夫婦で食わねばならなかったという貧苦の時代、良き友人の死に対して登場人物が叫ぶ神様へのルサンチマン、警察に目を付けられOSI(空軍情報部)にまで呼び付けられた体験、友人の家を巡り歩いて食べ物の施しを乞うた1971年まで語られる、その赤裸々な本音があってこそ「かりにきみがいまそんな立場にあるとしてだが、きみの危機や苦境がいつまでもつづくものでないことを教えたいからだ」というメッセージに説得力が加わる……いや、ディック先生に言われてもなあ、という気もワカらないでもないが。
 他作家との有名なエピソードが語られているのも、この『まえがき』。ハインライン先生が病気の時に助力を申し出、電動タイプライターまで買ってくれて「彼こそはこの世界の数少ない本当の紳士だ」とのたまっていた(政治的イデオロギーがまったく違う、というのは超右翼小説『宇宙の戦士』を読めばまあディック先生と対極だわな)のはこの文章が初出かな。またハーラン=エリスンはディック先生本人も「わたしを毛嫌いしている」と認めながら「わたしはあのちび公が好きだ。やつは本当に生きている人間だ」と、独特の愛情を吐露している。『運のないゲーム』の解説、「登場人物の少年に向ける愛情はハーラン=エリスンに対するのと同じ」を思い返すと何だかしみじみとクスリと笑える話ではありませんか。
 順位はこちら。
3位:まえがき
2位:ゴールデン・マン
1位:ヤンシーにならえ
 一般市民の“政治的意識”とやらを痛烈に皮肉った『ヤンシーにならえ』が本書では最もグッときた。
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