D&D5e余話#133~5eキャンペーン『五つの風』 第一話「黄昏の風」中編~

 戦争によって、北部の経済は著しく衰退し、王室の蓄えもかなり少なくなった。その結果、王の個人資産も相当減少した。ファーヨンディの国道網は、かつては自慢の種だったが、今は、各地方の貴族が自費で補修している場所を除き、荒れ放題となっている。その結果、この国の経済は少なからぬ損害を被っており、交易は激しく減少している。

『グレイホーク・ワールドガイド』96P

 ダイヴァースを発った馬車に、カテームとヴマエは乗り込んでいた。カテームはグレイホークから、ヴマエはエルムシャイアから徒歩でグレイホークに移動し、そこから乗り入れ。グレイホーク戦争と大北方十字軍によって、ファーヨンディに至る街道は致命的な打撃を受け、今なお復旧もままならない。しかし、それでも人の流れを止めるわけにはいかない。リスクを承知で馬車は動かさねばならないし、ただでさえグラブフォード戦勝記念が間近に迫り、人も物資も現地や首都チェンドルに向けて集中する時期。物騒な風体の人間たちが馬車には詰め込まれていた。
ヴマエ「ムシャムシャその辺で買った食い物を喰らってるブヒー」
 ……その中でも極めつけに怪しいのがこの清く正しいハーフオークだった。いや、D&Dのオークは猿人とか原始人っぽくて豚ではない気がするのですが。またトライセリオンのパラディンとして、整然とした佇まいのカテームもヤクザもんの間でかなり浮いているフゥ、前回のレポートは紹介中心だったのであんまり崩せなかったけど、やっぱり筆者はおふざけと真剣と書いてマジが半々で混じり合う文章の方が楽だぜ。
 そして、食い物をかっくらってるヴマエに匹敵するぐらい怪しいのが、ダイヴァースから乗り込んできた商人の女だった。分厚い眼鏡に、櫛の通っていないボサボサの髪、着膨れているせいか本来の体型が計れない。商人というのは、馬車の止まる先々で訛りを交えながらの叩き売り、
女商人「さあさあ御用とお急ぎでない方はちょっくら見ていっとくれ。これを見ていくは子々孫々への語り草、見ていかぬは共通歴が終わるまでの損。この儂の手元にある干し肉、そんじょそこらの干し肉とはワケが違うぞい。ここだけの話じゃが、ファーヨンディ現国王のベルヴァーⅣ世陛下、どうもここ最近元気が無い。なんせやっとこさ戦争終えたというのに次から次へとこじれる戦後処理、しかも世継ぎもいないと来たもんだから、無理もないよ。
 ところがお主!(ここで机を叩く) この干し肉を口にしたら、たちまち国王覇気を取り戻し、手近なアイウーズのデーモンの一匹や二匹を縊り殺しそうな勢いと来たもんだ。言うなれば王家公認の干し肉よ。本来なら庶民の口にするのも恐れ多いものだが、ここは儂にも人情ってもんがある。このベルヴァー陛下をも立ち直らせた霊験あらたかな干し肉を、大盤振る舞いに目ん玉引ん剝くでないぞ、たったの2spで売ってしんぜよう! 高い! よーしわかった! 何しろ苦しい懐具合、無駄飯ぐらいに子沢山を抱えるお主らが、たったの2spとは言え払えるほど呑気な生活をしとるとは思わん! 儂も女だ、この胸には男にも負けん商人魂が燃えておる。その商人魂に賭けて、ここは九層地獄に落ちる覚悟でまけてくれよう! これで買ってくれなきゃ儂もうヴェルヴァーダイヴァ川に身を投げるしかないよ! 1sp!(机を叩く) たったの銀貨一枚だ! それでも高い!
 奥さんそりゃーよくないよ! ただでさえファーヨンディの街道が荒れ放題なのは知っとるだろう。儂がどれだけ苦労して仕入れたか慮って頂戴よ。まーそれも仕方ないよ、なんせアイウーズとの正面衝突からたったの三年だからね。しかも戦に勝っても得たのは取り返した領土だけ、命懸けで戦った兵隊さんへの見返りも未だ保証できてないってんだから、身体も細れば実入りも細るってもんよ。思わず儂も泣いちゃうよ。庶民の涙は落したところで土を湿らせるのが関の山だからねぇ。その涙に免じて、この干し肉5cp! それも1つなんてケチなことは言わん、ドーンと3個もまとめてもってけってんだ! 買ってくれる!? ありがとうねお兄さん、ついでにもひとつオマケに付けて、切っても肉の精力を損なわない特製ナイフも一緒に持っていってくんな! それじゃあ次の商品いくぞい!(以下この調子で続く)」
 ……と、ヤクザな兄貴みたいな調子と大雑把な物売りで判別できるのだが、きょうびの商人にしては従者もつけず、大きなバッグ一つしか売り物が無い。それも、毎度の宿場で商品を売りつくしておきながら、馬車が出る頃にはいつの間にか仕入れを終えて、バッグをパンパンにして戻ってくる。着膨れているのは無数の台帳(この時代にしては珍しく。っていうかあるのか知らんが)を服の下に身に着けているようで、しきりに本人にしかわからなそうな走り書きをせわしなく続けている。
ヴマエ「よくわからんが、とにかくセクハラしてみるブヒー」
カテーム「とにかくじゃないだろ」
 ……怪しげではあるが、別に害をなすわけでもないので干渉するでもなく、ヴマエは食い物を売ってもらう相手として大いに世話になっていたりした。

 ナーリー森の付近にある宿場町で、ベイツは馬車を待っていた。ファーヨンディの街道は悉く破壊しつくされて手が付けられずにいたが、広大な森林を守るエルフや森の民たちは、戦後も活動する邪悪な勢力を排除するため、活発な行動を維持していた。そのため、下手な街道よりもブラックソーンのようなオーガやオークの潜入地があるとはいえ、森の民との交易があるこのような場所の方が活気と安定した経営があると言えた。
 ファーヨンディに向かうためには、二つのルートがある。一つは時間をかけて陸路を進む道筋。ナーリー森を迂回してリトルバーグに向かい、そこから船を使ってアット川を下ってパンターンを目指す。もう一つは森の民の援助を受けて、ヴェルヴァーダイヴァ川沿いにナーリー森を抜けて、アット川を下る船の始発であるストルマーまで直進する。
 前者は、荒れた街道とはいえ開けた道、何が潜んでいるかわからない森を突き進むよりは安心できる道程。後者は後者で途中ナーリー森の悪意ある存在との遭遇は予想できるが、強固な信頼関係にある森の民の援助あらば、それらを避けて短時間でアット川に乗ることができる。
 いずれにせよダイヴァースから発した馬車に乗り、この宿場町からナーリー森にさらに近い宿場街へと乗り継いでいかねばならない。が、その馬車の到着が遅れているのだ
ベイツ「ふむ、それなら俺が様子を見てこようか」
 腕利きの秘術呪文使いの申し出に、住民は喜んで依頼する。データ的にも不意は打たれないわフォッグ・クラウドで煙幕を張るわで確かに偵察にはうってつけの人選だったこの人。っていうかこれからローグ的任務をこの人が負うのか……ヒェー(DM心の声)。

 その数日前。
 マヴィスは、何処とも知れない川のほとりで目を覚ました。木々に囲まれているのは戦場と同じであるが、ここは“虚ろの森”とは違う。健やかな育成を樹木は見せているし、ところどころに繁みのざわめき、鳥のさえずり、生き物の息吹があちこちから伝わってくる。明らかに、違う森を流れる川のようだ。
マヴィス「……ということは、つまりあの戦いは夢だった!
DM「いや、鎧に残る傷などから、戦闘の跡はうかがえるんですが……」
 しかし、自分の体に残る傷は全て癒えていた。それも、最も深手の、致命傷であったはずの脇腹までもだ。が、その抉られた患部だけは完治と言い難かった。ゴライアス独特の強靭な筋肉組織とは違う、明らかに別の組織によって埋まっているからだ。それはマヴィスの体色とは異なる奇妙な色彩を放ち、彼女本人の鼓動とは別の循環機構によって脈動しているようだった。
 また、川に浮かぶマヴィスは、透明な膜のようなものに覆われていた。卵の殻か蛹のように彼女を包み、ここまで運んできたであろうそれは、触った途端に川の水に溶けて崩れていってしまった。
マヴィス「ふーむ、サッパリわからんが……理論的な説明を付けるとしたら、本来私が戦っていたのは別の場所で、“虚ろの森”にいたと勘違いしていたということですね!
DM「いやかなり無理があると思います」
マヴィス「ともかく、状況がわからないのでは進むも退くもありません。一度、森の外を目指さないといけませんね」
 そうして、数日の間森を進み続けたマヴィスの前に、ついに光が見えてきたのだが……。

 もうじき宿場というところで、女商人が御者を止めた。
カテーム「ん? 何かあったのか?」
女商人「……どうも妙な雰囲気じゃなぁ」
 馬車が進んでいるのは、ナーリー森周辺の小さな林が点在している街道。何かが潜むには好都合の場所であった。
ヴマエ「何か見えるブヒか?」
DM「じゃあ〈知覚〉をどうぞ」
ヴマエ「うーん俺は【判断力】が低いブヒー」
カテーム「私も出目が悪いなあ」
DM「……ではベイツさん、向こうの方から馬車がやってくるのが確認できます」
ベイツ「なんだ、ただ遅れていただけか」
DM「が、遠くで足が止まりますね。さてあなたも〈知覚〉を」
ベイツ「うーん低い」
DM「え? 全員10にも届いてない。で、では……」
 カテームやヴマエが周囲を見回しても、特に怪しげなものは発見できない。女商人は「儂の勘違いかのう」と首を捻りつつ、身体を馬車の奥へと戻した。御者が、馬車を再び発進させようと手綱を振るう。
 その瞬間、ベイツは見た。遠方でいななきを上げて歩み始めた馬車目がけ、林から一斉にクロスボウが射かけられるのを
ベイツ「うわあなんだなんだ!?」
DM「幸い、御者や馬には当たらなかったようですが、幌や荷車にボルトが次々と突き刺さり、驚いて足が止まりましたな。そこに林の奥からシミターを抜いたコワモテの男どもが殺到してきます」
 〈隠密〉していた追い剥ぎ(バンディット)に気付かず、馬車への接近をカテームらは許してしまう。
ヴマエ「ああっ! あれはお父さん!
カテーム「マジかよ! ……確かに親父が追い剥ぎでもあまり違和感ない面相だが」
DM「もちろん違いますて。……でも両親ネタはいいシナリオソースになるから覚えておこう
 ベイツの存在にはまだ気づいていないようであるが、林の中にはまだライト・クロスボウを装填しているバンディットが残っている。迂闊に動くと標的にされる恐れがある。
ベイツ「なんせ俺のhp7だもんなあ」
 しかし、追い剥ぎも馬車の乗員達も、もう一人の伏兵には感知していなかった。
 強行軍を続けてきたマヴィスの前から木々は少しずつ薄くなっていき、ついにははっきりと森の外と認識できる光が指してくるまでになった。
 が、その先から剣呑な響きが伝わってくる。混乱した人々の声、下品な威嚇の雄叫び、馬の怯えの悲鳴。森の切れた先にある馬車に向かって、見るからに無軌道な男たちが射かけ、シミターを振るって近付こうとしている。戦闘司祭たるマヴィスは、即座に状況を把握した。
DM「強盗が行われているのは明白ですな」
マヴィス「まだクロスボウを構えている連中が残っていますね。では、そこに接近しましょう」
DM「(〈知覚〉の出目を聞いて)……あと、そいつらの側の繁みが何か動いた気がします
マヴィス「む? では、そこに近付かないようにしつつ」
 隙を見てクロスボウを打ち込んでやろう、という企みに舌なめずりする追い剥ぎの頭部に、ウォーハンマーの一撃が叩き込まれた。
DM「えっ、て感じで振り返った瞬間、マヴィスの強打で追い剥ぎは重傷を負います。が、まだ生きてはいる」
マヴィス「では“戦闘司祭”のボーナス・アクションでもう一撃」
DM「よ、容赦ねェ……もう一人倒された」
 林から上がった別の鈍い音に、追い剥ぎたちの気が一瞬逸れる。
ベイツ「そこだ! 馬車に接近しようとしていた三人目がけてスリープを!」
DM「では5d8をどんぞ」
ベイツ「うむ、悪くない。合計で25ってところだな」
DM「……追い剥ぎ二人が倒れました。ヒィイーものの2行動でもう二人しか立ってるのがいない」
カテーム「馬車の前は、もう一人だけか。では私が押さえに行こう」
ヴマエ「なら俺は倒れている奴を仕留めるブヒ」
DM「あの、ひじょうに言いたくないんですが、寝ている相手には自動的にクリティカル・ヒットする上に、ハーフオークはクリティカル時もう1回ダメージ・ダイスを振れます
 ヴマエのグレートソードは易々と追い剥ぎの胴体と頭部を離れ離れにした。予期せぬ増援と呪文の不意討ちで完全に瓦解した追い剥ぎは、機会攻撃を浴びながらもカテームの間合いから離れ、林の中では必死のクロスボウを放つも、そんな及び腰ではマヴィスの高いACに当たるわけもない。
 このまま戦いは速やかに終わると思われたが……。
DM「マヴィスの見かけた繁みの辺りがまたザワザワと動きます。やはり見間違えでは無かったようですね。で、そこからぬっと、ちょうど追い剥ぎの真後ろから立ち上がるものが」
マヴィス「んん?」
DM「そいつは人間くらいの大きさの芋虫のようで、口元に複雑に蠢く触手と、凶悪な牙を持っております。早い話がこいつです
Carrion_Crawler_5e.jpg
一同「ウギャアー! やっぱり1レベルから出たぁー!」
DMやっぱり最初に出会うモンスターはキャリオン・クロウラーでなきゃあと思うんですよ。追い剥ぎはモンスターじゃないからノーカンです」
 当然1レベル相手に脅威度2のモンスターをぶつける程、そう、あんだけ公式シナリオにブーたれライターをディスっておきながらそんな所業を許すほどDMとてPLに厳しく自分にガバガバではありません(遠回しでもない割と直接的な悪口)。ちゃんとデータは大幅にデチューンしたヤング・キャリオン・クロウラーです。まあそれでも当然麻痺の触手はありますがな! あと、キャリオン・クロウラー言うたら地下に出現するものやん、というツッコミには、あのD&D界の味皇こと桂令夫先生とて森の中で出現させているのだから問題ない!3e時代のすっごい古いリプレイですが!
 ヤング・キャリオン・クロウラーが触手で追い剥ぎを打ちのめすと、振り返ることもできずに、その体が硬直してしまう。触手の毒によって麻痺した追い剥ぎは、辛うじて動かせる顔の筋肉を哀れに歪ませながら、たちまち頭からヤング・キャリオン・クロウラーに貪られてしまった。
ベイツ「ううっ追い剥ぎを一人逃がしてしまったがそれどころではない。キャリオン・クロウラーがどこで出るかで、DMの本気度が計れると古来より言われていたものだが……」
マヴィス「最初に出てきたってことは、今日はやさしいってことですね!」
カテーム「んなワケあるかーい! 助けてもらったことだし、私もヤング・キャリオン・クロウラーの相手に向かうぞ!」
DM「ううう、当然ですがこのACでは殴ってくれと言ってるようなもんだ……ですが、AC18相手でも反撃の触手が当たった。では【耐久力】セーヴを。失敗すると麻痺状態となります。麻痺状態でも攻撃がヒットすると自動的にクリティカル・ヒットしますのでよろしく
カテーム「そんなモンよろしくされてたまるかー! セーヴは成功!」
マヴィス「相手のACは低いようですから、ここは畳み掛けましょう。アクションでウォーハンマーで殴って、“戦闘司祭”でもう一発」
DM「げっふう。ウォーハンマーに叩き潰されたヤング・キャリオン・クロウラーは、体液を吹き出して悶絶し、やがて身動きしなくなります」
ヴマエ「すっげえ火力ブヒー……っていうかさっきからあの岩女、クレリックらしいことを何一つしてないなあ
 最大の脅威も片付け、やっと周囲は落ち着きを取り戻した。
ヴマエ「そういや馬車の中のいかつい連中は何してたブヒ?」
DMいきなりの襲撃に動転してびびってました
カテーム「お前ら荒事求めて来たんじゃないのか!」
DM「だって彼ら所詮キャラクター・クラスも持ってないですし。3eのDMGによると一般人は一生かけて2レベルになるぐらいの成長速度だそうですから、そんだけ冒険者が希少種というワケですわ」
 自分たちのいきがりを恥じて縮こまるごろつきの間から、例の女商人が顔を出した。
女商人「いやいやお主ら強いのう。追い剥ぎだけでなくキャリオン・クロウラーまで倒してしまうとは。それにそこの呪文使いのあんちゃんにゴライアスの姉ちゃんも大したもんじゃて」
カテーム「そういえば貴方たち二人の素性を聞いていなかったな」
ベイツ「いやあ僕はちょっと秘術呪文にたしなみのある若僧ですよ」
カテーム「何故はぐらかすか!」
ベイツ「まあ間者であることだし」
マヴィス「というかこっちが聞きたいんですけど、一体ここは何処なんでしょう」
一同「( ゚ω゚)?」
 マヴィスの身の上を話し始めると、やがてとんでもない行き違いが判明し出す。
ベイツ「ここはナーリー森の近所だが」
マヴィス「えっ!? 私が戦ってたのは!?」
DM「ずーっと北の、ヴェルヴァーダイヴァ川を遡っていった先にあるヴェスヴェ森林でしたよ」
マヴィス「ええっ!? 実は森を取り違えるとんでもない勘違いをしながら行軍していた!?」
カテーム「だからその線はないと思うんだけど」
女商人「大体クロックボート包囲戦はとっくに終わっておるぞ。今年でグラブフォード戦勝記念の三周年目じゃからのう」
マヴィス「えええっ!? そんな年月眠りっぱなしで終戦も知らずにいたなんて!」
 マヴィスの部隊が全滅し、彼女本人も致命傷を負った戦いから、既に三年が経過していた。無論、マヴィスはマデリーンの一刀に敗れた最後の記憶から、何も覚えていない。
女商人「……何やらお前さん、複雑な事情があるようじゃなあ」
マヴィス「……とにかく、ファーヨンディには戻って報告をしないと。上官の命令が第一の性格ですんで」
ヴマエ「俺はそんなことより、追い剥ぎの装備を貰っとく方が忙しいブヒー」
ベイツ「そういえば一人寝たまんまの奴がいたな」
追い剥ぎ「はっ! 俺は何を!? ギャアー味方が斬首されたり撲殺されたり喰われたりしてるぅー! 頼む、命は、命だけは助けてくれー!」
カテーム「と言っても、こいつ宿場に突き出したらどうなるんだ」
DM「まあ縛り首じゃないすかね」
ヴマエ「まあそういうわけだから、大人しく財産だけ差し出してお縄につくブヒ」
追い剥ぎ「ヒィイーそんなのあんまりだぁー!」
マヴィス「待って下さい、いかなる時でも個人の意思とは尊重すべきです! まずは本人の許可を取らないと。というわけなんですが貴方達の財産を没収しても構いませんか
追い剥ぎ「(人生投げやりモード)もう勝手にしてくれ……」
マヴィス「いいそうですのでどうぞ」
カテーム「いいのかそれで」
女商人「すさんどるのぉお主ら。……ま、それも無理ないか。物心付いた時にゃ戦火の真っ只中。幼い手に構えもままならん剣を持たされ、戦場の中でやっと一人前になったと思ったらいきなりの停戦だ。故郷に帰ったところで、親兄弟は生死もわからん有様。結局、覚えたのは人の殺し方だけか……」
 一同の間に、暗い沈黙が訪れる。グレイホーク戦争、それに大北方十字軍はフラネスや人間たちに深い傷跡を残していったが、四人にとってその古傷は未だ癒えず、むしろ執拗な疼きと共に忌まわしい記憶として心を苛んでくるのだ。
 気まずい空気を作ってしまったことを取り繕うように、女商人はマヴィスの肩を叩いた。
女商人「どうじゃお主、アテがないなら儂と契約せんか? 腕のいい奴を探しておったんじゃ。儂もグラブフォード戦勝記念にあやかって仕事がしたくてのう。チェンドルまでの護衛とトラブルシューターが欲しいのよ」
マヴィス「それはこっちとしても願ってもいないことですが……」
女商人「そこの三人もどうじゃ。護衛の仕事だけじゃなく、仕事の斡旋もしてやれるぞ」
カテーム「まあ目的地は私もファーヨンディなので合ってはいるが……」
女商人「自分で言うのもなんだが、儂は腕利きのブローカーよ。武具が必要なら業物を、飯が必要ならテーブルクロスとナプキン付きで、宿が必要ならシャンデリアごと用意してやるぞい。もちろん歌も歌えるし、酒も飲める」
ヴマエ「じゃあ早速飯を宿場で用意してもらうブヒー」
ベイツ「こちらとしても、まあ異存はないか」
女商人「よし、契約成立じゃな。儂はネーマじゃ、せいぜいこれからよろしく頼むぞい」
 ネーマと名乗った女商人と四人は馬車に戻り、今度こそ宿場町へと進んでいった。

 ……そして、林の中へ逃げ込んだ追い剥ぎの生き残り。方向も考えず突き進んでしまった男は、気付けば完全に迷っていた。仲間を失い、一人では宿場の自警団にも太刀打ちできまい。それ以前に、林を覆う異様な空気は一人でいるのに耐え難い威圧感があった。一刻も早く、捕縛されるリスクを考えても、人里へ出たかった。
 踏み出した男は、灌木に踏み込んだところで、突然足を払われて転倒した。転がりながら、男は痛みと共に絶望を覚えていた。狩人や樵でも入り込みそうにないこの場所で、足を払うという戦術的な仕業をしてくるのは、ブラックソーンに潜む邪悪な存在出も無ければあり得ない……。
 必死で立ち上がろうとした男の目の前に、不意にゆらりといびつな影が出現していた。辛うじて人間のカリカチュアと呼べそうな四肢を持つシルエット……だが、その背はまるで水泡のように盛り上がり、時折膨れては破れて微細な粒子を吹き出している。そいつの重量のせいで前屈みとなり、突き出された顔と呼ぶべき部分から、どろりとした瞳が男を無感情に見下ろしていた。
 男の上げた絶叫は長く続いた。立ち上がろうとした男の身体に、何処からともなく発射された針の雨が突き刺さり、さらなる苦痛を男にもたらす。のたうち回る男を、何のためらいも高ぶりもなく、奇怪な影は何度も何度も、無思慮に殴りつけた……。

(つづく)

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