ひらく夢などあるじゃなし~三上寛怨歌集~

 ひらく夢などあるじゃなし

o0258019611621879524.jpg
 今や額を問わなきゃ(大抵)何でもあるウドの街な具合のネット世界ですが、非効率的と笑われても筆者はやっぱり自分の足と目で探すのが好き。そして見つけた時の喜びはひとしお。中野王国民でよかった(兼高円寺名誉住人)。
 三上寛の曲は昨年のオーケン名曲喫茶で紹介されていた。ゲストの水戸華之介が選んだのが『おど』だった(よりにもよってなんでこの曲なの水戸さん!)。筆者はベスト・アルバムで何度も聞いていたから多少耐性が出来ていたのだが、お客さんは「おど――!」という絶叫に堪えきれず笑いを漏らしていた。オーケンがこの反応に「笑っちゃうってことは、それだけ我々が薄くなっているってことだよね」とコメントしていたことが、記憶に新しい。本当に衝撃的な物事を前に、人とは笑うしかないとエッセイでも書いていたっけ。
 ベスト・アルバム収録の『ピストル魔の少年』は発表当時問題になったと聞く。死刑囚・永山則夫を歌ったものだからだそうだ。しかしこのアルバムはもうそういう問題を超えている。『夢は夜ひらく』は放送禁止指定されたけど、そもそもこのアルバムに収録されてる曲のどれひとつでも公共の電波に乗せるか否か、という判断が働くこと自体がまずおかしい男に刺されて死にたくない、早く逃げて巡査が来る、死にたくないと交互に叫ぶ瀕死の女の歌、隣村の村長に体を売った母の歌、恋を性欲という形でしか表現できず、女を襲った少年の歌、何を流したって放送事故どころじゃありませんよ、もうこれは事故ではなく放送テロだ。『スター誕生!』でうっかり勘違いをして『あなたもスターになれる』を流しちゃったりしたら、抗議殺到ツイッターは炎上番組打ち切り獄門もあり得る。解説を書いている田口トモロヲさん(この選抜も最高。ばちかぶりのコンセプトが「三上寛がバンドになったら!?」だったとは)も唖然とし、爆笑した、つまりあのトモロヲさんでさえ我々とまったく同じ反応を示したというのも納得である。
 街角で呼び止められて暗がりに引きずり込まれて突然三人ミュージシャンを挙げろ、と問われたら、確実に筆者は三上寛の名前を挙げるだろう(ほか二人はオーケンと山本正之先生かな)。できれば十年早く出会いたかった二十年早く出会っていたら、人生が変わっていたかもしれない。そのぐらいのパワーをこのアルバムは秘めている。
 このアルバムに収められているような曲を聞いて、気持ち悪いとか半笑いで狂ってるとか、単純な反応が出来る人がいたら、それは自分の幸運に感謝するべきだろう。何故なら、つつがなく人生を送れているという証左だからだ。こういう曲を聞いて共感してしまう当たり前の人生を送れなかった筆者は、そういう人が憤ろしいほど妬ましい。世間に理解してくれとは言わないし、理解してもらえるとはこれっぽっちも思ってないが、こんな音楽にしか救いを求められない人達だっているんだ、ってことだけは心の片隅に留めておいてほしいもんだ。規制規制で耳触りの良い言葉ばかりが取り残されているけれど、『昭和の大飢饉予告編』(このタイトルで既にしびれる)で歌われているように、正しい言葉で励まされたって、元気で明るく皆と一緒に生きて行こうと言ったところで何になる!? と吠えたくなる人の代弁者もいなければ、ゲージツなんかに何の価値があろう。
 世界中のなんもかんも死んじまえ、というのはあまりにも幼稚な憤りではあるけれど、こういう幼稚なルサンチマンを心の何処かに留めていなければ、創作において良いモノというのは絶対に出来ないと常々思う。そして、ルサンチマンを作品に昇華するというのは、このぐらいやって初めて言えるのではないか、と身の竦む思いで聞いた。
 と、言うか、正直パワーと狂気があまりにも凄過ぎて、ちょっと引いた。「母ちゃん泣かないで、(ジャーン)気が狂いそうだよ――!」って、それはこっちのセリフじゃー! 多少マイルドなベスト・アルバムの方を私は好き嫌いと言う尺度なら推したい。アルバムの中でも比較的穏やかな(といってもこれも相当やばいけど)『誰を怨めばいいのでございましょうか』が筆者は狂おしく好き。最もパワフルなのは『ひびけ電気釜!!』か。「買い物カゴにひと山いくらの堕胎児が」というフレーズに、誰が振り向かずにいられよう!? 前述した刺された女の『一人の女のフィナーレ』もすんばらごい。生で聞いてオーディエンスと一緒に「死にたくない死にたくない」と連呼したい。ついでに三上寛の中で一番はというならベスト・アルバムの先頭打者に選ばれた『馬鹿ぶし』、これは人生歌にしてもいい。「故郷を出る時抱いていた意地さえネオンに散らしたか」「やりたいことの半分もできれば青春それまでか」この二節は心にグッサグッサ刺さる。次が『夢でよかった』。『夢は夜ひらく』の次にコレが待っているという発想が恐ろしい。小林旭のカヴァー『ギターを持った渡り鳥』は本家より好きだ。


三上寛の世界(紙ジャケット仕様)三上寛の世界(紙ジャケット仕様)
(2007/11/21)
三上寛

商品詳細を見る
スポンサーサイト

テーマ : フォークソング
ジャンル : 音楽

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

銀河アズマ

Author:銀河アズマ
頑張りましょうと言えないのがとても残念です

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
タグ

D&D Pathfinder PC作成 5e 4e Encounters 初期PC TRPG クトゥルー クトゥルフ神話TRPG キャンペーン 六門世界 東方ドミニオン ARG レポート 3e 読んだ本 ボードゲーム 迷宮キングダム 小説 サプリメント APG ACG SW2.0 MM ザ・ペナルティメイト・トゥルース カードゲーム モンスター・コレクション メタリックガーディアン N◎VA パラサイトブラッド UC 音楽 大槻ケンヂ  エッセンシャル 筋肉少女帯 PU ブレイド・オブ・アルカナ 一発ネタ MTG 漫画 風神録 UE Season8 キン肉マン SF ジョジョの奇妙な冒険 中堅PC 覚醒篇 バカゲー GM 野望のルーツ Season6 ウォーハンマー Princes_of_the_Apocalypes 永夜抄 Season4 UM Season7 アニメ リプレイ サタスペ 東方領土研究会 クトゥルフ2010 パズル EXTRA 紅魔郷 DMG ゲーム Bestiary PHB 伊藤勢 Season11 死の国サーイ クトゥルフ2015 椎名誠 R&R 妖々夢 真・女神転生 天羅万象 NEXT スパロボ ガンダム 地霊殿 PSYCO-GUNDAM スティール・ボール・ラン 機動戦士Zガンダム シナリオ Season3 ファンタズム・アドベンチャー Season9 Season5 MC シオドア=スタージョン UA 世紀末古代災厄公社伝説 Forge 奇想コレクション バキ フィリップ・K・ディック レッド・ノベンバーを救え! Season12 好きなTRPG 空中庭園エリュシオン コードウェル城奇譚 荒野に獣慟哭す シャドーオーバーミスタラ ナイトウィザード タイム・オブ・ティアーズ・アゲン キャッスル・レイヴンロフト CRB 番長学園!! 電車 フンタ レジェンド・オブ・ドリッズト 特撮(バンド) 五つの風 UCa リボルミニ パンデミック サタスぺ ジョジョリオン Expeditions 特撮 プロモカード Volo's_Guide_to_Monsters 映画 ダンジョン・コマンド Temple_of_Elemental_Evil 快傑ズバット ACG 機甲猟兵メロウリンク FEAR アリアンロッド メガテン シャドウラン 異色作家短篇集 手塚治虫 ダークブレイズ 装甲騎兵ボトムズ d20モダン 雑記 東映特撮YouubeOfficial 即大休憩 真夜中の探偵 レイトショウ T&T 三国志 アルフレッド=ベスター ラス・オヴ・アシャーダロン ラクラク大統領になる方法 ゲーマーズ・フィールド エンゼルギア ジャングルスピード ドラスレ Pit 東方領土研究会会報 Out_of_the_Abyss 異色作家短編集 セブン=フォートレス MM2 VGtM モンスター画家 ウルトラマン 当方領土研究会 三上寛 クソコラ 鉄腕アトム ラフカディオ・ハーンと四つの顔 パラノイア 魔獣使いの少女 ガントレット・オブ・フールズ コズミック・エンカウンター 革命万歳 アーカム・ホラー 絶体絶命 キテレツカップリングパーティ 刺青の男 レイ=ブラッドベリ キャット&チョコレート ログ・ホライズンTRPG そっとおやすみ バイブルハンター ミストグレイヴ 島本和彦 火の鳥 スティーヴン=キング クトゥルー神話 ストーンオーシャン ポケットの中の戦争 イベント 都筑道夫 幻想少女大戦 カットスロート・プラネット フレドリック=ブラウン 

リンク
FC2カウンター
D&D5e
Pathfinder
クトゥルー
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード