クトゥルフ神話TRPGヨタ話#61~クトゥルフの呼び声TRPGセッションレポート「為愛來離開」中編~

 演歌『矢切の渡し』にはいくつかのバリエーションがある。
 ちあきなおみのシングルEP盤『酒場川』のB面曲として発表され(この際のタイトルは『矢切りの渡し』)た後、舞踊演目やテレビドラマで注目を集め、1982年にA面シングルとしてあらためて発売された。
 1983年にはちあきなおみと6人の歌手による7種類のシングルが発売され、その中でも細川たかし盤が最大のセールスを記録。細川盤の発売に当たり、ちあき盤は生産中止となった。
 後年、美空ひばりや中森明菜もカヴァーしており、1997年時点で27人がレコード化したという。
 他にも中国語、北京語、台湾語のカヴァーが存在する。

 かほるは羽田とコンタクトを取ってみようと、ホームページに予約を入力してみるが、その手応えに違和感を覚える。予約されたと表示されはいるのだが、実際にそれがきちんと処理されているかというと怪しい。入力があったからただ受け付けた、というページが出てくるだけで、その情報が羽田の方に届いていないようなのだ。一体何故このような細工をする必要があるのか? ってことは、羽田は医者の仕事をほとんどしていない、する気が無いということか。

 蔵田と麻布は警察筋から情報収集にあたる。
 麻布はあらためて(見たくないけどもう慣れてきた)遺体を調べ、最近ホトケになったばかりであることを知る。
 一方蔵田は昨日の江戸川流域の異変に関して、川べりに敷かれていたゴザの使われ方から、短期間逗留している人間たちがいたことを突き止めた。数か月前からホームレスが目撃されていたという証言も、これを裏付ける。ゴザだけが放置されているのを見ると、川に飛び込んだ人物が使っていたらしい。……にしても、川で泳ぐにしては寒い季節のはずなのだがもう11月なのに
 もうひとつ、気がかりなのは聞こえてきた歌声だ。美しい歌声であったが、3時間も聞き惚れているというのは尋常ではない。しかも、飛び込んだ連中はあの歌に操られるように上流目がけて泳いで行っていた。
 メロディを思い返してみると、あの歌は蔵田も知っている歌だった『矢切の渡し』がそれだ。文化保存会が言っていたように、現在は『矢切の渡し』の生歌を歌える人間は少なく、録音に頼っている。歌える人を探すなら、深川の芸者、つまり深奴を当たるのが確実と思われる。ただ、歌詞は日本語ではなかった。恐らく、中国語らしき響きだった

 ネット予約ができないと知り、かほるは近隣の住人に羽田の評判や行状を聞き込む。
 羽田は三十代後半で金持ちらしく、高級ホテルのロビーで見かけられたこともあるという。また、妙な偶然か、深川の芸者について聞いて回っているとか。医者と深川芸者のつながりがどうも見えない、と訝っていると、ちょうど蔵田と麻布が江戸川流域の調査に回っている所に出くわす。羽田については、二人も情報を持っていない。が、深奴について嗅ぎ回っているのは『矢切の渡し』を聞いての怪現象といい、少々気になるところである。
 三人がそんな話をしているところに、羽田が往診から帰ってきた。
 早速ネット予約がつながらなかったので直接家に来たことをかほるが告げると、「部屋が散らかっているので、すいませんが外で」と取り繕う。さらに、蔵田を見るとあ、公僕の方はちょっと
 ……あからさまに怪しくない? この医者
 気まずい空気が一瞬流れるが、今流れる胡散臭さを見逃す手はない。深川芸者を探っていると聞いているし、せっかくなので話題をちらつかせてみると、これまで得た情報の他に、かなり深い所まで知っているようであった
 五代目深奴が探しているかんざしについては、ベークライト製というと明治時代の高級品。深川芸者にプロポーズする時に贈るものだったという。かんざしなのは「一緒に苦労をしてくれ」→「“”ろう“”てくれ」→九と四→櫛、という掛詞でそうなった……というのが由来だそうだ。
 よく知ってるなあー、と感嘆すると、往診ついでに近所の変わったところを見て回っており、その折知識を仕入れているのだった。文化的な情報には目が無いんです、とじゃっかん怪しい光を瞳に湛えながら羽田は生き生きと話す。

 結局、家に上げてもらうことは叶わず、羽田とはそこで別れる。
 三人は道すがら、各々の追っている事情で重なる点がないか確認。
 その中で、蔵田の聞いた『矢切の渡し』を生で達者に歌える人物は、やはり最も身近なのは五代目深奴。歌詞が中国語だったという点については、考えてみると深奴は中国語を喋れないとは一言も言っていない。確認してみる価値はありそうだ。
 次に、ベークライト製のかんざし。そうそうあるものではない貴重品なのを鑑みると、あの妙な遺体が抱えていた棒状の物体はその一部なのだろうけど……アレが本人ってこたぁないよね。いや明治時代の人が現代まで生きてる可能性は無きにしも非ず、ではないけれど。仮に本人だとしたら、随分三代目はサイケな趣味という事になるな。なお、死因は老衰とのことだった。
 どうも羽田の動きが怪しいと踏んで、彼の足跡を辿ってみる。日中は郷土資料館に来て調べ物をしており、往診専門なのでおかしくはないが、なんか本当に仕事してんのか怪しくなったかな。と思ったら、ストレッチャーを家の中に運び込むために業者を使っていたことはあるとか。往診専門とは聞いていたけど、一応家の中でも診る用意はしているということなんだろうか……が、さらには深川工場から水槽や濾過機、アクアポンプ、水草とあんまり医療と関係なさそうな物品まで運び込んでいたという証言あり。アクアリウム趣味でもあって部屋が散らかっているのか……いや、プレイヤー的には大体見当がついてきたんですけどネ

 日が暮れてきたということもあり、蔵田は約束通りパトロールに出かける。特に江戸川流域を重点的に回り、目撃情報を集めているうち、新顔のホームレスが滞在していたという話が古参ホームレスの耳に入った。古株たちからすれば縄張り荒しなので快く思っていなかったが、ある日を境にぷっつりと見かけなくなっていた。その日は、蔵田が『矢切の渡し』を聞いた日と一致する。
 飛び込んだ連中が消えた下流の方へと降っていくと、河川敷には海水魚の食い散らかしが目立つようになってくる。それも、生魚ばかりだ。その異様な残留物に眉をひそめていると、またもどこからともなく『矢切の渡し』が聞こえてくる。今度は日本語のものだ。そして、その歌に呼応するように、激しい水音が川から響いてくる。
 川面には、江戸川を遡る一団が激しく水を掻き分け、力強い泳ぎを見せていた。ロングコートと帽子で風体は確認しづらいが、その肌は灰色がかり、手には水掻きができている。蔵田があの時見かけた飛び込んだ者たち、そして麻布が目にした遺体と共通の特徴である。
 この異常な泳ぎ手の出現に、蔵田は素早くタクシーをつかまえて、上流に向けて追跡を開始する。ワンメーターを越える頃に、河川敷に人が座り込んでたむろしているのがライトの中に浮かび上がるようになってきた。闇の中に映ったその顔は膨れ上がった目に低い鼻、それに突き出た口元を持つ、どことなく魚を連想させる形状であった。彼らは酒と魚を喰らいながら、一様に同じ方、上流を見ている。蔵田とかほるは異界的風景に衝撃を受けるが、とっくにこの狂気に慣れっこの麻布は「すいません、ちょっと通りますよ…」状態で平気で間をすり抜けていく。別に彼らも危害を加えてくることはなく、ぼうっと見とれているだけだ。
 半魚人たちの見つめるずっと先、土手の上には深奴が腰かけて、切々と『矢切の渡し』を歌い上げていた。その歌は単に歌唱力という評価には当てはまらない、魂とでも言うべきものが込められていた。その迫力は半魚人のみならず、三人をも魅了する力があった。……が、半魚人たちは聞き惚れていながら、決して深奴に近づこうとしない。歌に惹かれても、病的に近づくことへの恐怖を覚えているような気配が、そこはかとなく感じられた。そんな風に観察している半魚人の中の一人が、黒い樹脂製の棒状の物を抱えているのに気付いた。
 だが、それと同時に歌は終わり、半魚人たちはハッとしたように江戸川に飛び込んでいった。棒を持っている一匹も黒い川水に消え、見えなくなっていった。

 こうなっては直に話を聞かねばなるまい、と深奴の前に三人は立つ。まあそれ以外に、蔵田は単に美女の五代目にお近づきになりたいという魂胆もあったのであるが
 歌を終えた深奴は、落ち着いた様子で「彼らは同胞でありんす」と告白しながら、自らの由来を語り出した。
 『矢切の渡し』とは千葉と江戸を結ぶ渡し舟で、畑作のために江戸に出る人が利用するものであったが、実は日本古来のコロニーを持つ古き一族……“深きもの”と呼ばれる半魚人が、人となるための儀式であった深奴もまた、その儀式によって人間になり社会に溶け込んだのだ
 “深きもの”は暴力以外によって死ぬことはないが、人となった者は寿命で死ぬことがある。“深きもの”にしては若すぎる死、なのだそうだ。大体340歳ほどで老衰を迎え、先代もそうやって死んでいったという。
 つまり、かほるとムチャをやった四代目とは、目の前にいる五代目深奴その人。姿を消したその時の四代目とクリソツというのも至極当然のハナシである。若い頃の狼藉をきっちり覚えられていてかほるは悶絶するが、その横で蔵田もBBAと知って多大なショックを受けていた
 深奴が探してほしいと頼んだベークライト製のかんざしも、彼女本人が明治時代に貰った物だった。180年前の恋人、秦公春からの贈り物である。
 秦は「一族の悲願のために不老の秘術が必要」と深奴に告げ、“渡り”をしたいと望んだ。
 “渡り”は先述した人と半魚人の境を越える儀式のことで、半魚人を人に変えることもあれば、人を半魚人に変えることもできるのだ。これを“いやぐるりの渡し”と深奴らは呼んでいたという。
 “渡し”を実行した秦は姿を消し、深奴は待ち続けた。しかし一向に音沙汰はなく、30年後に深奴は彼を追って放浪の旅に出る。それでも秦の足跡は見つけられず、つい数か月前、これを最後に深川を永遠に去るつもりで戻ってきたのだ。
 秦は遺産を食い潰しながら不老不死の悲願を探し求めていた。彼の実家は和歌山県の神宮筋で、これは徐福上陸伝承の伝説となった地である。徐福と言えば始皇帝に命じられ、不老不死の霊薬を求めて東方に旅立ったという人物。その血筋というなら、彼の悲願はわからないではないが……人から半魚人に変わったものも、やはり不死性は不完全で、老衰を迎えることになる。
 バカな女の一念と笑うなら笑って下さって結構、と自嘲する深奴に、麻布は時を越えたロマンス、そんなものに憧れたこともあったなあと遠い目をする。その横で蔵田は新しい恋に目覚める時でおじゃると素早い立ち直りを見せていた。
 ただ、川岸に歌に引き寄せられて“深きもの”が集まるのはちょっと困りものである。ちょっと夜中に集まって酒や魚を貪るので害はそんなに無いが……じゃあいいじゃん、とすっかり狂気に慣れた上に深奴の女の執念に打たれた麻布は人間社会の基準というものを失ってスルーしていた。ただ、蔵田が魅了されたあの日は歌詞も違えば、歌声も違っていた。深奴本人も、その日は歌っていなかったという。そして、元々の“いやぐるりの渡し”は歌いながら江戸川を舟で進む形態であるが、本来の歌詞は中国語なのだ。

(つづく)

スポンサーサイト

テーマ : TRPG
ジャンル : ゲーム

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

銀河アズマ

Author:銀河アズマ
頑張りましょうと言えないのがとても残念です

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
タグ

D&D Pathfinder PC作成 5e 4e Encounters 初期PC TRPG クトゥルー クトゥルフ神話TRPG キャンペーン 六門世界 東方ドミニオン ARG レポート 3e 読んだ本 ボードゲーム 迷宮キングダム 小説 サプリメント SW2.0 APG ACG MM カードゲーム ザ・ペナルティメイト・トゥルース モンスター・コレクション メタリックガーディアン N◎VA パラサイトブラッド 音楽 エッセンシャル 大槻ケンヂ UC 筋肉少女帯  ブレイド・オブ・アルカナ MTG 一発ネタ 風神録 漫画 Season8 PU SF キン肉マン UE ジョジョの奇妙な冒険 覚醒篇 中堅PC バカゲー GM 野望のルーツ ウォーハンマー Princes_of_the_Apocalypes Season6 Season4 永夜抄 Season7 アニメ リプレイ サタスペ 東方領土研究会 クトゥルフ2010 パズル EXTRA 紅魔郷 DMG ゲーム Bestiary UM PHB クトゥルフ2015 伊藤勢 Season11 椎名誠 妖々夢 天羅万象 R&R 死の国サーイ 真・女神転生 NEXT スパロボ ガンダム 地霊殿 PSYCO-GUNDAM スティール・ボール・ラン 機動戦士Zガンダム シナリオ Season3 ファンタズム・アドベンチャー Season9 Season5 MC 世紀末古代災厄公社伝説 シオドア=スタージョン Forge 奇想コレクション バキ Season12 フィリップ・K・ディック 荒野に獣慟哭す 空中庭園エリュシオン UA コードウェル城奇譚 好きなTRPG レッド・ノベンバーを救え! ナイトウィザード シャドーオーバーミスタラ タイム・オブ・ティアーズ・アゲン キャッスル・レイヴンロフト 番長学園!! フンタ 電車 レジェンド・オブ・ドリッズト 特撮(バンド) CRB 五つの風 UCa リボルミニ パンデミック サタスぺ ジョジョリオン Expeditions 特撮 プロモカード Volo's_Guide_to_Monsters 映画 ダンジョン・コマンド Temple_of_Elemental_Evil 快傑ズバット ACG 機甲猟兵メロウリンク FEAR アリアンロッド メガテン シャドウラン 異色作家短篇集 手塚治虫 ダークブレイズ 装甲騎兵ボトムズ d20モダン 雑記 東映特撮YouubeOfficial 即大休憩 真夜中の探偵 レイトショウ T&T 三国志 アルフレッド=ベスター ラス・オヴ・アシャーダロン ラクラク大統領になる方法 ゲーマーズ・フィールド エンゼルギア ジャングルスピード ドラスレ Pit 東方領土研究会会報 Out_of_the_Abyss 異色作家短編集 セブン=フォートレス MM2 VGtM モンスター画家 ウルトラマン 当方領土研究会 三上寛 クソコラ 鉄腕アトム ラフカディオ・ハーンと四つの顔 パラノイア 魔獣使いの少女 ガントレット・オブ・フールズ コズミック・エンカウンター 革命万歳 アーカム・ホラー 絶体絶命 キテレツカップリングパーティ 刺青の男 レイ=ブラッドベリ キャット&チョコレート ログ・ホライズンTRPG そっとおやすみ バイブルハンター ミストグレイヴ 島本和彦 火の鳥 スティーヴン=キング クトゥルー神話 ストーンオーシャン ポケットの中の戦争 イベント 都筑道夫 幻想少女大戦 カットスロート・プラネット フレドリック=ブラウン 

リンク
FC2カウンター
D&D5e
Pathfinder
クトゥルー
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード