読んだ本#33~狼の一族~

 この異色作家短編集と奇想コレクションは、目に入っただけでもついつい手に取ってしまう
 今回読んだのはアンソロジー。知ってる作家もあれば知らない作家もあり、もっと読みたい人もいればこの人だけで一冊はツライなぁ、と正直に思う人もいたり。アンソロジーのテーマはアメリカ作家編、エンタメ中心だそうだ。

 狼の一族

狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇 (異色作家短篇集)狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇 (異色作家短篇集)
(2007/01/31)
フリッツ・ライバー、ジャック・リッチー 他

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ジェフを探して(フリッツ=ライバー)
 酒場〈トムトムズ〉のパプスは、店に来訪するミステリアスな美女、ボビーに怯えていた。彼女は必ず、“彼女なりの特別誂えの騒ぎ”を巻き起こし、しかもパプス以外には誰にも見えないのだ。そのはずが、マーティンにも彼女は認識でき、あろうことか、虜になってしまった。マーティンにボビーが願ったのはただひとつのこと、「いつかジェフという男に出会ったら、ビール瓶の底を割って顔を叩きつけて」。
・ヤク中疑惑のパプスにボビーが見えるのはともかくとして、ごく普通の青年マーティンと彼女の他者には認識できない触れ合い。ボビーに魅入られていくうちに知らず知らず狂気の世界に入り込む、その過程が執拗なボビーの容姿の描写と絡めてジワジワと読者の精神に染み込んでくる。派手さはないけどオシャレな話。

貯金箱の殺人(ジャック=リッチー)
 ドナルド少年は二十七ドル五十セントで大叔父ローリンズの殺しを依頼しに来た。大学助教授のこのわたしにだ。彼女の母マドレーンが私の講義を受けている学生と知ってのことである。わたしは秘書に四十五分も待たされながら、大叔父にはったりをしかける。が、これは失敗に終わった。
 失敗を告げに行ったドナルドの家で、ドナルドから本の間に銃が隠されているのを知る。その銃には装填がなされていた。まさかマドレーンが本気にならなければよいが……と思った翌日、警官がわたしを迎えに来た。ローリンズが撃ち殺されたというのだ。しかも、容疑は私にかかっており、ドナルドは昨晩の発砲を知らん顔している……
・ジャック=リッチーと言えば『10ドルだって大金だ』 (KAWADE MYSTERY)で、小品ながらもユーモアとヒネリの効いた短編ぞろいで楽しませてもらいました(同名の収録作が筆者のお気に入り。読むのダ)。軽い話ばかりの作家とゆうことでなかなか評価されなかったが、軽い話を書き続けることにだってプロの技量は存在するのだ、という解説には拍手喝采。本編もまさに面目躍如、二十七ドル五十セントで殺人を依頼されるという導入からしてズズズーッと話に引き込まれる。そして話の流れからするとお人よしの主人公がクソ生意気なガキにハメられて臭い飯を食うしかないのだが、それが二転三転、どんでん返しに次ぐどんでん返しからの大団円をたった数ページでやってのける技量、これは正にプロの仕事。

鶏占い師(チャールズ=ウィルフォード)
 長編小説執筆のためにベキア島を訪れたわたしは、そこで鶏占い師に出会った。まず円の外周にアルファベットを書き、その文字の上にトウモロコシを置く。左足を結えた鶏はトウモロコシをついばんでいき、その下にある文字を占い師が書き留めて、それが運勢になるという代物だ。
 わたしの運勢を占った結果はM-O-R-T、フランス語で“死”を意味する。最初はたかが占い、と思っていたのが、いつの間にか私の精神はその四文字に脅かされ、冒されていった。救いを求めるわたしに鶏占い師は護符“オビア”を買った。ところが、その中に入っていたのは得体のしれないガラクタばかりであった。憤ったわたしはオビアを海に投げ込んだが、そいつの中身を鶏占い師の口に突っ込んでやるというさらなる名案を思い付く。わたしは海に入っていきオビアに追い付こうと泳ぎ出すと、不思議なことにどんなに泳いでも辿り着かず、しかも強い離岸流がわたしのからだを捉えてきている――わたしは叫んだ。「オビア! おまえを信じるぞ! 信じる、信じる、信じる――
・イワシの頭も信心から、と言うが、一体どこから何処までが占いの魔力で、どこまでがイカサマなのか。ま、それがハッキリワカったら占いなんて商売成り立ちませんが。それっぽいことを並べておくと、聞いた人が勝手にあれはそういう意味だったのか凄いなあ、と解釈驚嘆するのが予言とか占いの本質ではないかと思う(なんかやたら祭り上げられる小難しいアニメとか映画みたいだな)。こういう曖昧さがあるので、私は基本的に占いは信じていない。が、求める人たちの心理や占いという生業は否定しない。現実に面と向って言われると信じられないアドヴァイスや激励や指摘を、形而上的な存在を通した言葉として耳にすることで呑み込めるようにしている、と考えれば、胡散臭くても占いという仕事は現代でも十分“アリ”なのだ。

どんぞこ列車(ハーラン=エリスン)
 落ちぶれた元ミュージシャンのアーニーは、貨物列車の荷台にタダ乗りして何処へかと旅する流れ者になっていた。綿花の梱に腰かけていたその日、駆け落ちしてきた若僧と小娘が貨物列車に乗り込んできた。こりゃあいいカモだ! しかも女連れときた。目的地に着くまでのお楽しみに舌なめずりをするアーニーだったが、さらなる来客の無法者出現で、事態は急変する。若僧は喧嘩の最中、そいつをナイフで殺しちまった。鉄道公安官の足音に若僧は覚悟を決めたようだが、その時アーニーの胸には捨てていった妻や子供、楽団にいた歳月、そして貨物列車と酒がよぎった――。
・アメリカSF界の狂犬・エリスン先生の短編集『世界の中心で愛を叫んだけもの 』(ハヤカワ文庫 SF)の感想は、「メチャクチャに面白いかメチャクチャでわからないかのどっちか」だった。一方、SF界に台頭する以前、山のように書きまくっていた短編からの採用とあって、本タイトルはストレートな舞台設定と物語。そのぶん、主人公フェザートップのやさぐれっぷり、下卑た心理、そしてやるせなさが極めて直接的に、切々と抉り出される。この汚らしさには眉をひそめる読者もいるだろう。が、つねづね筆者はこう思う。汚いことばかり言う奴というのは不快であるが、綺麗なものしか求めない人間というのも、それはそれでまったく信用できないもんである

ベビーシッター(ロバート=クーヴァー)
 二人の子供と赤ん坊の面倒を見ているベビーシッター。親達はパーティに出席する。ベビーシッターのボーイフレンドは、女慣れをしている友人を連れて、子供たちを寝かしつけた後、ベビーシッターと楽しむ算段を立てていた。一方で子供たちの父親は、ベビーシッターが留守中家を自由に使っていることを知っており、入浴中の姿に思いを馳せて欲情を掻き立てている。
 子供たちは自由にふるまい、ベビーシッターは癇癪を起し、少年たちと父親の劣情は火と燃える。あり得る未来は複雑に交錯し、切り刻まれ、いずれも悪しき結末に向かって進んでいく
・うーむむむ? ザッピングストーリーの先駆け? なんだか『パルプ・フィクション』みたいだ(筆者はこの映画、あんまり楽しめなかった)。実験小説らしいが、それだけに話の整合性なんて取れてなくって当たり前なのかもしれない。

象が列車に体当たり(ウィリアム=コツウィンクル)
 野獣の王は遠くの森から現れたヘビに一敗地に塗れた。無数の歯を持ち、きらきらと輝くヘビの体当たりにゾウは負けたのだ。森中にこの敗北は広まり、誰もがゾウを嘲笑っている。メウシもゾウを相手にしない。怒りと恥辱に震えるゾウの前に、再びあのヘビが現れた。ゾウはもう一度、真正面から頭突きでヘビに向かって突っ込んでいった。
・どかーん!
(⌒⌒⌒)
 ||

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| ・ U      |
| |ι        |つ
U||  ̄ ̄ ||
   ̄      ̄
もうおこったぞう
 ボヘミアン作家の怪人、傑作を書く気がまったくない、とまで言われた作者だけあって、たった5ページで↑なだけの珍作。タイトルでモロバレしてるあたりが確かにまったくやる気を感じないあと異種姦の話。

スカット・ファーカスと魔性のマライア(ジーン=シェパード)
 トマス=ジェファーソンの所持品であったと言われる手製のコマを見て、わたしは少年の熱き日々を思い出していた。ウォレン・G・ハーディング小学校の不良、スカット=ファーカスは敵対者のコマを真っ二つにする名手で、奴の愛用のコマは“マライア”。由来も知らない真っ黒な、回転すると不気味な音を立てる性悪だ。
 ファーカスへの復讐のため、わたしはほうぼうを自転車で巡ってコマを探し、ついに6キロ先のトータル・ヴィクトリー雑貨店で、マライアに対抗しうる逸材を発見した。その名は“ウルフ”、マライアと対になるような真っ白なコマだ。猛特訓を重ねた末、ついにわたしは決戦の時に挑む。わたしとファーカスは、そこで二つのコマの奇妙な因縁を目の当たりにするのだった
・ガキ大将との奇怪なコマ対決、子供の時分にだけ許されるノスタルジックな題材。大人にゃワカらない理由で子供は熱中するもの、という言葉には大いに頷かされる、わかります、ええわかりますとも。その熱中ぶりを当時の目線そのままで書いてくれる筆致がいい年しても趣味人な身として心地よい。

浜辺にて(R=A=ラファティ)
 オリヴァーの人生は四歳の時に見つけた巨大な貝とずっと共にあった。オリヴァー以外に何故か見つけられなかったその貝があるとオリヴァーはきわめて優秀な頭脳を発揮し、離れると日常生活もままならない。その貝にはマイクロ蟹が棲みつき、様々な高度な仕事を請け負っていたのだ。
 オリヴァーは頭でっかちなまま成長した。彼の財産を目当てにすり寄ってくる女もいたが、四六時中付いて回る貝に愛想をつかして出ていった。
 さらに時は経ち、訪問者がオリヴァーを迎えに来た。あの貝は訪問者の世界から訪れたもので、その対価がオリヴァーだというのだ。別世界に持ち去られたオリヴァーは、長い時間をかけてゆっくりと変化していった。そして、彼らの世界の子供たちがオリヴァーを見つけることだろう……。
私は貝になりたい(文字通り)。
 なんともかんとも不思議な幻想譚。貝にまつわる子供たちの会話から始まるが、生物学話なんてものではない、貝類の推理からして無茶苦茶なのだから。こんだけいい加減な話をSFと分類するとまじめなSFファンから怒られそうな気がするが、かといって他にどう分類したらいいものか。それでいて見事な帰結を見せるのだから、一方的にしてやられた気分になる

他の惑星にも死は存在するのか?(ジョン=スラデック)
 宇宙ルンペンピーターは、惑星ランプキンに忍び込み、コンピュータを再プログラムする密命を帯びた地球合衆国のエージェント。場所を変え、星を変え、時空を変えながらも追手と戦い続ける。
・タイトルで哲学的な内容かと思ったらやりたい放題やってる話だった。

狼の一族(トーマス=M=ディッシュ)
 木の精(ハマドライアド)はアーレスの一生を語り始めた。人でも狼でもない人狼として生まれた彼は、人間としても狼としても、心身共に申し分なく成長していく。しかし、人間の社会と狼の社会、特にそれぞれの種の伴侶は彼が片一方に属することを許さず、次第に軋轢を生んでいく。狼の被害が懸念され、ついに狼狩りに出動することになったアーレスは、ライフルで牝狼に狙いをつけるのだった。
これやっ、これぞ異色作家やっ、という一本。人狼という存在ならば、人間社会と狼の社会それぞれに属していかねばならないはず。人間の社会でも狼の社会でも立派にやっていた人狼を見舞った悲劇、この着想の卓抜さ! テーマ自体は人狼という使い古された代物ながら、鋭利な観察力が付きまとう手垢を綺麗に磨き落としてくれる。そしてどっちつかずの存在がどっちかを選ぶ物語ではなく、どっちつかずの存在はどっちにも行けず消えていくしかない、という突き放した冷酷だが冷静な論理。これがあるからこそ異色作家、オンリーワンの称号を与えられるんでしょう。

眠れる美女ポリー・チャームズ(アヴラム=デイヴィッドスン)
 奇妙なものに目が無いエステルハージ博士は、ローベイツ警視に誘われ、三十年前に眠りについてから一度も目を覚まさないイギリス娘、ポリー=チャームズを見に行った。彼女は、父親ムルガトロイドに促され、神がかりな言葉を口にし、美しいフランス語による歌を歌う。
 エステルハージ博士は、その仕組みを催眠学によるトリックではないかと推察していた……それを調べる前に、見世物小屋は火に包まれた。ムルガトロイドも、ポリー=チャームズも、火に巻かれ焼死していた。彼女の死体には、父が刻んだおぞましい宿業の痕があった。
・結局いたいけな娘を食い物にしている親父……のハナシだったのか、トリックの種がはっきり開示されていないのでどうもワカらない。舞台は架空の王国で、エステルハージ博士を主役にしたシリーズの一つだという。オリジナルの王国を飾りたてる情報量はスゴイので、連作を読めば評価も変わるかもしれない。

 見所はやっぱ『象が列車に体当たり』これでしょう。「えっこれで小説って言えるの!?」と思わなくもないが、創作なんて
yattamongati01.jpg
 編集者がGOサイン出してちゃんと出版されて、こうしてアンソロジーにまで再録されてるんですからこれでいいのだ。
 ベスト3は
3位:鶏占い師
2位:貯金箱の殺人
1位:狼の一族
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テーマ : 海外小説・翻訳本
ジャンル : 小説・文学

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