読んだ本#30~ペット・セマタリー~

R&R123号掲載のクトゥルフの呼び声TRPGシナリオ『暗い森で眠らせて』、そのイメージソースとして紹介されている作品を読んだ。

 ペット・セマタリー

ペット・セマタリー〈上〉 (文春文庫)ペット・セマタリー〈上〉 (文春文庫)
(1989/08)
スティーヴン キング

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ペット・セマタリー〈下〉 (文春文庫)ペット・セマタリー〈下〉 (文春文庫)
(1989/08)
スティーヴン キング

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 キング先生らしく、何の救いもない実に胸クソ悪い話であった
 しかし同時に、物凄くつらくて、悲しくて、切なくて、やるせない物語である。こういう感情の巨大なうねりを呼び起こせるということは、やっぱり名作なんだろうな。猛烈に悪趣味なのも認めるけどね。
 分類としては違いなくホラー小説であろうが、怪奇要素、超自然的描写は、分量に比べてごく僅かである大半が主人公ルイス=クリードの、“死”という概念に対する考察と自問で埋め尽くされている。この煩悶が、怪奇要素よりも数段怖い。下巻でルイスが愛息子を失ってから、文章のほとんどはいよいよ彼の悪夢のような思考に費やされるようになる。息子の埋葬された墓を掘り返しながら、あるいはペット共同墓地を踏み越え、ミクマク族の秘境を目指しながら、ルイスは己と読者に問い続ける。
 目の前に、死者を蘇らせる手段があるというのに、何故それを使ってはいけないのか? 仮に蘇った者が、元のそれとは少しばかり違っても……多少の知恵おくれであるとか、成長不良であったなら、自分は愛せるのか? 愛せるはずだ。親子であることは変わらないのだから。どんな姿になっても愛しい息子は息子だ。しかし、世間にどう説明すればいい? 妻や娘たちと、蘇ったそれはどう付き合っていけばいいのか……
 愛によって盲目となったルイスは、これら倫理や常識に基づく問題全てを、狂った論理で片付けていってしまうのだ。ココが一番恐ろしい。この狂人の理知たるやまさしく鬼気迫る。筆者のボルテージがぐおんぐおん上がっていったのは、この胸焼けがするようなルイスの思考の堂々巡りが延々、本当に延々、墓暴きから再度の埋葬まで続く箇所であった。むしろ息子が戻ってきてからの対決、ルイスの精神崩壊まで来ると「いかにも」って感じでかえって冷めてしまった。個人的な好みで言うと、このまんまルイスの独白がずっと続いて息子の死体が帰ってこないで(あるいは帰ってくるだけで)終わってもよかったぐらいだ
 そしてルイスの人物造形や取り巻く環境がキング先生自身の人生を反映されているとあれば、これはルイス=クリードの口を借りた、キング先生の“死”に対する激白と思ってもいいだろう
 現代社会において、“”とはちょっと病的なまでに、さながらルイスの妻レーチェルがそうしたがごとく、人々の目から遠ざけられている。子供はおろか、下手をすると大人にさえ見せないように、神経質に覆い隠されている。にも関わらず、日々少なくない人が不可解かつ理不尽な暴力で死んでいる。創作の中でさえ惨たらしさの演出のためだけに、“死”がツールとして手軽に利用されている。この歪さはなんなのだろう。
 “死”というのはどこにでもある。電車の隣の席に座っていることもあれば、ビルの上から降りてきたり、コーヒーカップの中にさえも存在しうる。本書ふうの言い方をすれば、『オルのらいまおう』のように、至る所に潜んでおり、いついかなる時でも出くわす可能性は否定できない。そういう概念に対してはフタをできるもんでもないし、嫌がっているのに無理に見せたりするのも間違っている。個人的な考えを述べれば、“良い”“悪い”で判断するのではなく、ただもう「そこにあるもの」として認識するのが正しいような気がする。そして、我々が知り、教えるべきなのは、そこにある“死”とどう付き合っていくか、ではないかと思うのだ。
 事実は小説より奇なり、という言葉通り、長い人生、小説と同じかそれ以上につらいことに遭遇する時もあるだろう。本書のようなつらくて悲しい物語というのは、そんな出来事と出会った時の予防接種になる。つらい時、人はどんな反応をするのか、どんな対処をしていくべきなのか。本当に悲しい事に見舞われた時、こわれてしまわずにその先の生をどう進んでいくのか、予行演習を見せてくれる。自己と同一視して充足を得るという小説本来の役割のほかに、つらくて悲しい話には、そんな立ち位置があるのだと筆者は考える。
 いわんやルイス=クリードが味わったのは、事故で愛息子を眼前で喪うという、この上ない悲劇である。それが目前でなくとも、事故でなくとも、身内の死とは、生きていれば避けられない体験だ。親しく愛おしい人を喪ったことがあるならば、どんなに狂ってはいてもルイス=クリードの行為に共感を示せない者はいないだろう
 今日もどこかで無数の人が死んでいる。その「無数の死」とはただ統計上の死ではない。10人が死ねば10通りのまったく違った人生が終わったということであり、そして10人の死の背後には、遺された家族や友人が抱く、10通りのルイス=クリードの煩悶があるはずだ。そう考えた時、はじめて“生命”や“死”とは軽々しく扱う問題ではない、という意識が生まれると思うのだ。

 付記。
 『暗い森で眠らせて』は本書を確かにイメージソースにしているものの、登場人物の構成や「埋めた死体が甦る土地」という要素を頂戴しているに留まり、テーマとしてはまったく別物である。まあ、こんな死生観と人倫にまつわる話をTRPGでやられても、プレイヤーは困るだけだよな。
 また冒頭の南極探検の話は、勝手にKPが盛り込んだエピソードで、原文には影も形もない。これを知った時は「やりやがったなぁ」(コンバット越前調)と、してやられた口惜しさと讃嘆を交えた呟きを漏らしたものです。
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こんな気分
 こういう刺激を受けるとシナリオ執筆&セッション参加への意欲が即座に沸いてくるからじゃんじゃん与えてほしい。
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