好きなアニメ#02~機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争~

 明日はサイクロプス隊の一番下っ端の命日なのでその話。
 なお、今日はドズル・ザビ中将の命日です。

 ドラマとは葛藤であるという。ストーリーを作ることとは、このドラマ=葛藤をいかに見せるか、であると。
 一番簡単な葛藤の作り方は、善と悪の対立だ。善い奴と悪い奴がイデオロギーの違いでぶつかり合う。善い奴は社会における良識で立ち向かい、悪い奴は非道の限りを尽くして踏み潰そうとする。これは物語作りの基本というものだろう。
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 こういうアニメの場合はどうなるのか。よくわかりません!
 しかし時と共に視聴者の目も肥え、地球の裏側で起きている戦争を見物できるほど情報技術の発達した今ではなおのこと、単純な善悪の対立では「リアリティがない」と共感を得ることが難しくなる。そうなった時に取られた手法は、善の中にも糾弾されるべき悪しき部分があると善い奴も悩んだり、また悪い奴にも悪なりの事情という善がある、という構図。これは葛藤をより複雑にし、深みを与える効果を確かに持っていたが、「善の中にある悪」にも「悪の中にある善」にもそこに至るまでの過程と結論がしっかりしていないと、リアリティがない以前にまるっきり説得力のない、共感を欠いた物語になってしまう。
 ここ最近やたら槍玉に挙げられる「実は善い奴だった悪党は飽きた」という問題であるけど、これは構図そのものよりも、「実は善い奴だった」という素顔を見せるまでの描写がおざなりになっているからだろう。後は、改心した後の罪と罰の配分かな。いくら善い奴でも然るべき罪には然るべき罰がなきゃ納得できねーよ。
 じゃー「善い奴と悪い奴が戦う」の次が、「善い奴と実は善い奴だった悪い奴が戦う」なら、さらに進めて「善い奴と善い奴が戦う」とどうなるか?
 物凄く意地の悪い話になる。

 『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』はそんな話だ。

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 見る度に思うのだけれど、本当になんて意地の悪い話なんだろう。そこいらのグロアニメなんかよりも、よっぽどえげつなく隙なく容赦のない構成である。
 Zのアムロは「人の善意を無視する奴は、一生後悔するぞ」という名言を残しているが、このアニメ、人の善意が全て悪い方向に横滑りしている。サイクロプス隊も、連邦軍も、いや戦闘に参加していないコロニーの人たちだって、バーニィ、クリス言うところの「やるべきだと思ったことをやっているだけ」なのに、結果的に全部が全部悲劇に向かうことになっている。
 先述した通り、登場人物たちは基本的にみな「いい人」なのだ。ヤザンやゴステロ様のように戦闘狂であるとか、人殺しがだーい好きとか異常な性癖は持っていない。ガンダムシリーズ全体で見ても、極めて人格者の多い作品である。隣人知人として向き合っていれば、間違いなく良好な関係を築けたに違いない。そんな人々が武器を持って殺し合わねばならないという現実は、戦争の悲劇性を、単なる人命と資源の損失というだけでなく、本質的な部分で抉り出すことに成功している。この描写の深さは、他のシリーズでもそう及ぶまい。

 さらに意地の悪いのは、数少ない「状況が見えずにその場の感情のままで動いている」キャラクターが、主人公のアルという一点。当時見ていた人の中には「ガキが鬱陶し過ぎて見るのをやめた」という手厳しい意見もあったし、見終わった人からも「序盤アルという小僧が鬱陶しくてどうなることかと思った」という非難も出ている。それももっともな話で、作り手は絶対このウザさを計算して演出している。カツやハサウェイにも匹敵できるウザさって相当なもんだ。そして、彼のウザい「わかってなさ」が強調されればされるほど物語の悲劇やリアリティが明確になるのだから、心底意地が悪い。子供のアルが年相応の兵器への憧れとガンダム憎しで奔走すればするほど、あくまでも立場と割り切って立ち回るサイクロプス隊や連邦軍兵士の大人ぶりは対比され、また惨事を引き起こした原因が子供故の無邪気、という結論に説得力を生むのだ。ご存じの通り、アル少年はこの「わかってなさ」のとてつもないツケを最後の最後で支払わされることになる
 戦争に加担した罪というのは、兵士となって戦った者、それを指示した者だけにあるのではない。脳天気にお国のために戦うことを賛美し、バンザイバンザイと送り出した、戦いの埒外にある者も「戦ってないんだから知らない」と耳を塞ぐことは許されない。もっと言えば、戦争という状況下にあるすべての人間が罪人である可能性を孕んでいる。そんな冷酷な指摘を突き付けられているような気分になる。
 なお、アル以外の「わかってない」奴とは核攻撃を指示したキリングぐらいのもんだが、作中で何のお咎めもなし。サイクロプス隊が無残に散っていったのに対して、こういうところもやりきれない(一応、画集で自決したことになって入る)。

 ある人が言っていたのだが、バーニィの悲しさは「下手に立場があるせいで、情報が入ってきてしまう」ことだという。
 確かにバーニィは節目節目で重要な情報を意図せず握ることになる。ルビコン計画の目的に、サイド6への核攻撃。言われたことの実行だけを強要される使い走りならいいものを、戦局の逼迫のために経験も知識もないまま補充要員にされ、コロニーの明日がかかった作戦に従事することになる。しかも上官は人格者、サイド6の人々はクリスを筆頭に良い人ばかり。サイド6が核に晒されると知ったバーニィは、仲間の死を無駄にしないためにも、そしてアルとコロニーを守るためにも死ぬと分かった戦いに挑む。その結果がまったくの犬死にに終わったことを思うと、この「最悪のタイミングでいらん情報が入ってくる」という指摘には正しいと頷かざるを得ない。
 また、敵だろうと味方だろうと、救える命があるなら救うべきだというバーニィのスタンスは、兵士としては甘いが極めて人間的な特筆すべき倫理観である。納得してのこととはいえ、自殺行為のアレックスの戦いに挑もうというのに、アルに連邦軍やガンダムのパイロットを恨まないで欲しい、と懇々と説く勇気と優しさは、パイロットの技量云々よりも、はるかに評価されるべき素晴らしい資質だ。『0080』の登場人物たちは、戦士という前に、まず一人の人間という前提なのだ。ねじけた性格ばかりのガンダムシリーズの登場人物どもに爪の垢を煎じて飲ませてやってほしい。特に名前をバカにされただけで殴りかかった主人公とか

 斯様に意地の悪い話である『0080』だが、それが悪趣味に終わっていないのは、物語が少年の見た戦争、というテーマだったからだろう。ラスト直前まで戦争と兵器に憧れる無知な少年だった彼も、近所のお姉さんが自分の親友を直接殺害するという悲劇を自分が引き起こしたと知って、以前のままでいられるはずがない。破損した学校の校庭で、校長先生の訓示を聞きながら涙を流すアルで物語は締めくくられる。彼の泣き顔は、必ずや彼がバーニィのビデオレターで望まれていたような、立派な大人になるであろうことを確信させる。戦争の悲劇性を伝えることは、戦争を止めるための第一歩でもあるが、悲劇を知った人間がどう生きるか、を提示することも同じぐらい大切なことであるガンダムシリーズでありながらほとんどMSの戦闘シーンがない異色の作品でありながら、『0080』は戦争というガンダムに必要不可欠な要素を、その悲劇性においても、テーマにおいても、どの作品よりもアル少年の茶色の瞳を通して浮き彫りにして見せたのだ。
 全ては悲劇に終わった、次の戦争は少年たちのセリフに暗示されているし、歴史的にも決定されている。それでも最後に残るのは悲しみだけではない、アル少年の未来への希望なのだ。この残酷なしかし美しい救いに筆者は震えるのである。

 数少ない難点は、野暮な質問とワカっているのだが、何故バーニィのザクが、彼とアルが修理できるぐらい接近を許す状態で放置されているのか……という謎。小説版では爆弾がセットしてあったので武器だけ持ち帰ったとなっているそうで。後は、市街地の混乱の収拾で手いっぱいだった、中立のコロニーなので扱いが難しい…という説。確かにジオンが引き取るにしてもコロニーで回収するにしても面倒が多そうだから、後者はありそう。
 あと、「いかにMSの出番を減らしてガンダムとして成り立たせるか」という川柳的な出発点のため、せっかくかっこよくリファインされたMS群の扱いが……数少なくとも猛烈に気合入った動きを見せたケンプファーやハイゴッグ、ザク改などはともかく、量産型ガンキャノン、ジム・スナイパーⅡ、ジム・コマンドを擁するスカーレット隊が空前の出オチ隊になってるのは涙を禁じ得ない(ジム・コマンドと量産型ガンキャノン好きなのに)。

 物語を中心に語ってきたが、映像的な美しさ、特に限られているだけにMS戦闘シーンの力の入り方は他のシリーズにヒケを取らない。北極基地に上陸するハイゴッグや、コロニー内に出現したケンプファーのカット割りは、まさに怪獣映画のソレだ。また、ケンプファーを見た市民の混乱や、市街に落ちたジムの被害など、戦争が市井の人々に与える影響を間近で描いているのも、実は珍しい。戦争を取り扱いながら、戦時下にある人々にここまでスポットを当てたのは、ひょっとすると1stの「再会、母よ…」以来ではなかろうか。
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テーマ : 機動戦士ガンダムシリーズ
ジャンル : アニメ・コミック

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