読んだ本#06~ガイア・ギア~

 …感想の難しいハナシだったなぁ。ストーリィを取っても、設定を取っても。
 『逆襲のシャア』でガンダムシリーズにトドメを刺し、「もう(アムロやシャアで)金を稼がせないよ」と意思表示した(まあ、現在それがどうなっているかは周知の通り…)トミノ監督直々によるシャア・ストーリィとなっては、それも当然か。
 「ガンダム最強のキャラクターは?」という質問に対して「迷いを捨てたシャア」と答えたり、『逆シャア』のインタビューでアムロにはほとんど触れず、シャアの変容に多くの時間を費やしたりしていたのを見ると、ご自身にもシャアというキャラクターに思うところがイロイロとあったのかもしれない。なにせ情緒不安定な人だからねぇ。観念的かと思えばリアリスト、それでありながら激情家。打っても折れない強さと驚くほどの脆さを兼ね備えた…これほど評価の分かれる人物もガンダムワールド広しといえど珍しい。基本ダメキャラだと思うけどネ
 余談ながら、『ガンダムエース』に掲載されていた佐藤元氏のファースト制作漫画では安彦良和氏にアムロ、トミノ監督にシャアが当てられていたが、怖いほど違和感がなかった。パプテマス=シロッコか鉄仮面の方が俺はしっくりくるのだが。

 主人公、アフランシ=シャアはその名の通りシャアの一族…というか「シャア・コンテニュー・オペレーション」によって産み出されたシャアのクローン、即ちシャアそのもの。だがその名は訳して「自由になったシャア」であり、これがアムロやブライトにボコられシロッコやハマーンにはコケにされ、挙句マザコン暴露と共に退場した…なんか書いてて可哀想になってきた。とてもライバルキャラとは思えない…本家シャアとは違った結末の暗示となっている。
 実際、あまりの完璧超人ぶり以外にシャアらしさはアフランシ(エヴァならア・フランシ、メッサーならアーフ)からは匂ってこない。あまりダメさを出さない(脱糞やG行為はいつものトミノ主人公だしな。シャアファンの女史が見たら卒倒すると思うが)のもあるけれど、自然保護区で培った素朴なものの見方を常に基本スタンスとしていたため、結果としてオペレーションの黒幕メタトロンの思惑にも、敵対組織マハの陰謀、そして眠るシャアの記憶にも曲がらず、優れた操縦技術と統率力を持ちながら、自己で穏やかな退場を掴み取ることができたんだろう。ある意味理想的なニュータイプの姿なのかもしれない。

 …が、そのぶん設定が一人歩きしてしまった感も否めない。結局のところ「シャア・コンテニュー・オペレーション」も後半になるに従いその意味を消失していき(途中、シャアの復活で廃棄を宣言された気もするが)、仰々しい名前の割にはシャアの復活、その意志の遂行という曖昧なまま置き去りにされてしまっている。なにせアフランシ本人がシャアの記憶から逃げ続け、最後には投げ棄てエヴァリーとの生活を選んでしまうんだから。実行者であるメタトロンも、アフランシを連邦政府との交渉の材料にしてしまい、ますますもってオペレーションは名前倒れの様相を呈してくる。
 秘密警察組織マハにしても、最期はあっけない。選民主義人種主義を旗印に敵役ウル=ウリアンやビジャン=ダーゴル大佐など濃いキャラクターを揃え、母体の連邦政府を食うほどの実行力と発言権を持ちながらも、アフランシともども連邦とメタトロンの策謀で厄介払いされ、ウルは撃沈、ダーゴルも母艦ごと焼死。あれだけ獰猛さを見せ付けてきた組織にしては、どうも名前負けの感が否めない。「オイオイこんな勢力どうやってゲリラのメタトロンがどう倒すんだよ」と思って読み進めていたのだが…。
 「ワーグナーを聞きたいため」という子供じみた理由がダーゴルのアキレス腱となり、それを見破るアフランシという単純と言えばあまりに単純な構図はいかにもトミノらしい発想だと感心したのは事実だが。
 官僚制、民主主義の限界とインテリのいやらしさは度々トミノ小説に繰り返されるテーゼであり、特に本作では敵も味方も巨大な官僚組織である連邦政府に敵も味方も翻弄され、最終的にはどちらも屈するという裁定が下されている。アフランシ本人にとってはエヴァとの生活と彼女の懐妊という救いがあったかもしれないが、全体としてみれば、『逆シャア』で人の心の光を見てなお、人類のニュータイプの目覚めいまだ近からず…と、実は敗北感溢れる話だ。読後の釈然としない気持ちはこのへんにあるんだろう。
 もしかすると監督得意の投げっぱなしに走っただけかもしれないけど
 トット=ゲーリングとかミランダ=ハウとか生存者はおろかメタトロンやマハのその後も不明になっとるし。終盤に至ってなおホンコン・マハの新キャラが出てきたとき「やべっ、トミノ病(ブレンパワードフィルムブックより、ナッキィ登場に際して)発症か!」と勘付いてはいたんだよ!

 シャアがクローンとなってまでやっと平穏な生活を手に入れられたという安心と、未消化に終わってしまったことへの不満…その半々ですかねぇ。面白いのは確かなんですよ。ここは強調しておきたい。一介のテロ集団が連邦に食い入る組織とどう戦い、打倒するか? それをキチッと5巻の中でまとめあげたのは流石。『オーラバトラー戦記』でやらかされた後、その上ちょっとだけ聞いたことがあるドラマCDがなんか全滅エンドっぽかったのでハラハラしてましたが…面白いんだけどどこか歯痒い、トミノ小説はどこまでいってもトミノ小説だった、第二のシャアという壮大なテーマを扱いながら、そこを脱し切れなかった感があるのが惜しい。
 相変わらず精神論から政治論まで広がる難文悪文のトミノ文体はともかく、珍しくグロ描写や性描写、○ッチが少ないので、抵抗は他作と比べて軽いんじゃないかと。ガンダム史およびトミノ文学研究のために一読しても苦にはなりますまい。クリシュナは行動も扱いも酷過ぎますけど
 読みやすさ云々以前にそもそも読めねぇよって声の方が多いか。監督ご自身のクチで再販を否定されていますしねぇ…古書店でも絶望的だと思いますので、公共施設を利用するのがオススメです。筆者は図書館で全巻読めました。『オーラバトラー戦記』『閃光のハサウェイ』も完備の図書館、こいつは凄いぜ!
 ついでに、本作は同時期に執筆された『閃光のハサウェイ』との類似性が指摘されてます。アフランシは自然保護区生まれでメタトロン所属、人狩り組織マハが敵。一方ハサウェイは植物観測官でテロ組織マフティーの一員、連邦にはマン・ハンターという集団がいる。確かに対立構図も似てるし、兵器群もサイコミュやサンド・バレル、バリアー装備など共通の描写が多々見られますな。ヒロインがムカつくか否かが大きな差か。ここらへんがアフランシとハサウェイの明暗を分けた気がする。

 物語の舞台は『F91』も『V』もすっとばしての宇宙世紀0203年、でありながらも案外未来という感じはしません。いつも通りの宇宙世紀だけど、それは執筆時期からして当然ちゃ当然か。
 が、メカの設定に関しては「モビルスーツ」が「マン・マシーン」と呼称を変えていたり、後に正史でも登場する「ミノフスキードライブ」が登場したりと興味深い。メカデザインも「アンテナと目が二つあればガンダムとみなしちまう」と言われながらガイア・ギアは歪とさえ言える異貌。ゾーリン・ソールやギッズ・ギースなど、MSとはまた違ったラインの姿で『逆シャア』からのミッシング・リンクをいろいろと刺激してくれます(ガウッサが好き)。

 監督が精神的に不安定な時期に執筆されたため、否定的なイメージを持たれているらしいですね…権利関係で立体化にも恵まれず、また正史からも抹消に近い扱いを受けてるし。でも、前述したようにそこまで嫌うほどどす黒い話にはなってないと思うんですけど。
 第一、そんなこと言ったらつい先日完全版が出た『リーンの翼』の方がよっぽど酷いじゃない!
 アレに比べれば可愛いモンですよ! 『ガイア・ギア』なんてキツさでは末堂クラスです。
 いや、『リーン』が勇次郎レヴェルなだけか、この場合…。
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テーマ : 富野由悠季
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