読んだ本#25~どこにもない国&平ら山を越えて~

 なんとなく手に取った二冊とも大当たりでトシちゃん感激。

 どこにもない国

どこにもない国―現代アメリカ幻想小説集どこにもない国―現代アメリカ幻想小説集
(2006/06)
柴田 元幸

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 平ら山を越えて

平ら山を越えて (奇想コレクション)平ら山を越えて (奇想コレクション)
(2010/07/10)
テリー・ビッスン

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 古典ばっかり読んでて(昔は活字ギライだったので読むべき時に読まなかった反動)現代アメリカというフレコミからどんな内容かサッパリ察せなかったのですが、いやこれがまたおおおおもしれえ。幻想小説というくくりも筆者の趣味にバムオッシュとハマって全編捨てエピソード無し!
 ってもう8年前の本なのね。全然現代じゃねー! え? 十分現代じゃないかって? ハハハ何言うちょりますか、8年前といえば2006年、プリキュアはスプラッシュスター、ハルヒブームでオタクの大半の嫁は長門有希、D&Dなんて後衛職ならhp一桁がザラでしたよ。ホントに別世界だなオイ!

地下堂の査察(エリック=マコーマック)
 フィヨルドのそば、崩れかけた峡谷の端に作られた入植地。その地下には、様々な理由で監禁されている人間がいた。その人間の様子を調べ、報告をするのが私“査察官”の役目である。彼らは時々、示し合わせたように轟々と泣き喚くが、そんな時に訪問が重なってしまったら、私の地位も終わりだ。だから私も、彼らの身内も、静かな時を見計らって、さも丁度良く訪れた風を装いながら査察を繰り返すのである。
 ある時、私は突然に拘束された。私の名前も出身地も記録に存在しないという理由だ。私は抗弁し、故郷を調べてももらったが、そこには村の残骸しか見当たらず、しかもそこには恐ろしいことに、骨と内臓を取り除かれた女のなめし革が発見されたという
 独房で彼らの仲間に入りたいという誘惑に戦いながらも、私の耳にはあの鳴き声が響いてきていた……。
・すっげー不気味ですっげー理不尽な話。査察の目的も、主人公が連行された理由も一切明かされないままに物語は終わる。その、全てが謎めいた雰囲気、これが物凄く良い。このじっとりと冷たく暗い空気は、まさに地下系小説(そんなジャンルがあるのなら)。どことなく椎名誠の『
地下生活者』を思い出す。

“Do You Love Me?”(ピーター=ケアリー)
 山脈の一部や砂漠地帯、建築物、そこにあったものが消え失せる“暗黒地帯”はいつの間にか広がっていた。だからこそ地図製作者の仕事は重要視されており、私の父もそれを誇りにしていた。荒野を旅する父はたくましく鍛えられ、まるで自分がボーイフレンドのように、私の彼女と軽快におしゃべりする、その度に私はコンプレックスを刺激されるのだった。
 ある時から、消えるのはものだけではなくなった。人も消え失せるようになったのだ。父はその理由を、「誰からも愛されていないからだ」と言う。我々は他人の愛を通してのみ存在する、と。暗黒地帯も人間も誰からも愛されていない、孤独と疎外、愛の不在の象徴として使われたのだ。
 地図製作者の中からも、消える者が現れ始めた。己の仕事を誇りにしている父にとって、これは大いなる打撃であった。そして、父もまたこの世から消え失せようとしていた。私は父を愛そうとしたが、うまくいかなかった。私に思い出せるのは、父に痛めつけられたこと、侮辱されたこと、ガールフレンドを横取りされたことだけだったからだ。
 私は言う。愛しているよ、父さん
・地図製作者の話から始まり、冒険活劇かな? でもタイトルとの結びつきが読めんなぁ、とか思ってたら見事なジョイントを見せつけられた。愛されていない=誰からも必要とされていない人間はいないのと同じ、そんな観念をオカルティックな現象で描写することで、実に怪奇、実に幻想的な話に仕上げてきている。現代でも生きてるのか死んでるのかわかんないような人間増えてるもんな(俺含む)。

どこへ行くの、どこ行ってたの?
 母親から不器量で真面目姉と何かと比較され、コニーはそれに反発して夜中のドライブや映画を楽しんでいた。母親の目の届かない所で、コニーは目いっぱい着飾り、自由を満喫する。普段心の中で見下していた同級生の男の子が声をかけてくるのを無視できる優越感に、彼女は浸っていた。
 日曜日、両親と姉がバーベキューに出かけたのを見計らって、深夜に出会った男の子、アーノルドがコニーの家に迎えに現れた。コニーは困惑し、拒絶していたが、次第に意識は朦朧としてくる……。
・一番の見どころはアーノルドの一連のセリフ回し。こいつの歯が浮くようなセリフ、悉くスベってる上に中身が無さ過ぎて怖い。こんな事延々とくっちゃべられてみなさい、そりゃコニーの頭もおかしくなりますわい。

失われた物語の墓(ウィリアム=T=ヴォルマン)
 私は長い間悪魔や狐のごとき存在に悩まされてきた。私の綴ってきた美しい物語と女たち、それらは彼らの餌食となり、否応なく悲劇の道を辿っていった。奴らは、私にそのような結末を書くよう、仕向けてくるのだ!
 死んでいった話の眠る先は、“失われた物語の墓”だ。ああ、“失われた物語の墓”に下り、哀れな消え去りし者たちの魂を救済できたら! 決意した彼は、プシュケーを従えて、“失われた物語の墓”を探し出そうとする。燃え上がる期待に身を焦がしながら、彼は墓の鍵を開ける。しかし、それは彼を貪ろうとする大いなる罠だった。
・冒頭のポーの手紙の引用にまんまと騙された。どちらが書かれた物語でどちらが現実かハッキリしない、危うい境界が一層幻想的な雰囲気を高めている。晩年不遇で精神的にもかなりイッちゃってたそうだから、こんな幻視をしていても不思議ではないが文字色。せめて“失われた物語の墓”が望み通り後世の人々によって語り継がれ、彼と共に救済されたことを祈りたい(合掌)。

見えないショッピング・モール(ケン=ファルカス)
 フビライ汗は、どの使者や探検家よりも、マルコ=ポーロの言葉を入念に聞いていた。フビライが掌握する領土は地図では果てまで示せず、また畳むのがえらく骨が折れると来た。部下の報告では足りない、この若者の語る言葉によってのみ、己の意志が達成したものを実感できるのだ。
 マルコ=ポーロの語るもの、それは数々のショッピング・モールの話だった。ミッキーマウス・ウォッチの一九三九年限定版を取り扱う店、客が決して手が出せない値(消費税込み)で賢者の石やキリストの聖杯を並べる店、安らかな眠りから望みの夢まで提供する店、駐車場が一つもなくドライバーはぐるぐる周囲を回る店、時間を売る店……。
・本書屈指のなんじゃこりゃ? 話。寓話的な内容なのか、それとも単なるあやしのバカ話なのか。ともかくショッピング・モールの陳列物トークは楽しい。『見えない都市』のパロディらしいのでそっちも読まにゃあわからんか。

魔法(レベッカ=ブラウン)
 私は、女王様に見初められて連れ出された。彼女は面頬のついた兜をかぶり、体中を鎧と宝飾で覆っていた。彼女は私の前でそれらの装備を外すことはなかったが、私はその下に隠された姿を想像するだけで幸福だった。彼女は美しい城と町を持ち、またとてつもない大金持ちで、私は何不自由生活を送っていた。
 私は彼女との間を深めていくにつれ、彼女の隠された素顔に、次第に好奇心だけでなく苛々も募らせるようになってきていた。私はある時、眠っている彼女の体に触れようと、袖の内側へと指を滑り込ませるが、彼女に到達することはできなかった。面頬を開けて、兜の中にコインや宝石を落としてみても、空洞に落ちたかのように、がらん、と鳴るのだ
 私は無気力になり、何もかもをやめた。彼女は私に失望し、私の首を打とうとした。間一髪で逃げ出し、旅人に助けられた後、私は自分の家に戻った。しばらくは彼女への復讐を考えることもあったが、今は静かに通りがかるものの世話をする生活を続けている。
・リビングアーマーみたいな女王様に連れ去られ、悦楽の一時を過ごしてきた男の独白。てゆーかコレ女王様という呼び名といい甲冑コスプレといいしばかれるプレイといいSM小説じゃねえか!?

雪人間(スティーヴン=ミルハウザー)
 目覚めると、あたり一面は雪景色だった。夜の間に、信じられないぐらいの量の雪が降り注いだのだ。
 昼過ぎになると、“雪人間”が現れ始めた。その辺の雪だるまとはわけが違う、細部まで作り込まれ、豊かな感情を表現する雪の人間たちなのだ。時が過ぎるごとに、町の雪人間の精度は上がっていた。人間に限らず馬やカモシカ、街路樹とそれに止まる鳥、果ては居間や公園ひとつに至るまで
 その行き過ぎた完璧さに不安を感じ始めた頃、一晩中降り続いた雨によって、お祭り騒ぎは終わった。
・町に訪れた空前の雪像ブームを、少年(にしちゃ発言が高度な気もするが)の目を通して物語る。さっぽろ雪まつりもビックリだ。子供の時分に感じた、雪とか台風とか気候の激しい変化が起きた時の、何とも言えない高揚と不安を思い出す。そして、終わりの唐突さにもノスタルジーを覚えて仕方ない。せっかく積み重なった雪も一生懸命作った雪だるまも、本当にアッサリ溶けて無くなるんだよなー。今じゃ二月の大雪にハシャぐどころじゃなく、「うーん、雪はこりごりだぁ」とかほざくほど軟弱になっております。

下層土(ニコルソン=ベイカー)
 ナイルは砕土機の研究所の調査のため、トラクター博物館に通っていた。既に馴染みになっているモーテルに気を使わせまいと、別の宿を探した彼は、テイト夫人の家を紹介される。
 そのクローゼットの中で、ナイルは懐かしいゲームを発見した。ミスター・ポテトヘッド…ジャガイモに尖った針のついた目や鼻を刺して顔を作る…思わず箱を開くが、そこで見つけたのは創った顔をそのままに入れっぱなしにされた、本物の萎れたジャガイモだった。さらに、夕食の後に魅せられた貯蔵棚いっぱいに詰まった、異常成長したジャガイモにも強い嫌悪を煽られる。
 その夜、ナイルを襲った運命を、まさにその嫌悪感は予言していた……。
・正統派の恐怖小説。怪物がジャガイモという設定だけ聞くとアタックオブキラートマトな臭いを感じてしまうが、なかなかどうして本格的なホラーとして読めます。スティーヴン=キング先生にケナされて立腹、「じゃあキングばりの恐怖小説を書いてやろうじゃん!」と執筆されたのがコレだそうで、確かに話のくだりとか怪物の描写とかを見ると納得。「それがジャガイモ小説になるところが作者らしい」と解説されているものの、キング先生もあんまり人の事言えないような気がする

ザ・ホルトラク(ケリー=リンク)
 エリックはコンビニエンスストアのアルバイトで昼番を担当、バトゥが夜番。エリックは仕事中、チャーリーの車が来ないかずっと気にしている。チャーリーは動物シェルターで夜勤をやっており、殺処分される犬を、最期のドライブに連れ出してやるのだ。バトゥはチャーリーと親しくしており、エリックもそれを気にしていたが、バトゥは彼女と付き合いたいわけではない。チャーリーがエリックにふさわしいか、このコンビニに必要か見定めるためだ。
 従来のやり方は崩壊している。客がレジに来る前に客の値踏みをし、店にふさわしいタイプか判断しなければならない。代金は現金の時もあれば、物々交換の時もある。聞こ見ゆる深淵(オージブル・キャズム)”から出てくるゾンビを相手にする時もある。“聞こ見ゆる深淵”の下にはゾンビの国があるのだ。
 コンビニのマネージャーはとっくに逃げ出して、バトゥが後を引き継いでいる。ゾンビ相手にも商売できるコンビニ、その実験のために俺たちは雇われているんだ、と彼は言う。そんな試行錯誤の間にも、チャーリーとの別れは迫っていた。
・ゾンビ相手のコンビニ経営という時点で素敵にB級。世界もおかしいが平然とコンビニ経営しているお前らも十分おかしい。こいつら最高にあばばばばば。しかし世界が狂っていようと自分が狂っていようと、エリックの関心が女性のチャーリー、そして自分よりずっとうまくやれる(チャーリーとの付き合いも)バトゥというのは、なんか切ない。異様に退廃的な気配や、幕間に挿入される謎の文句とは裏腹に、一種の青春小説と言えようか
 なお、ホルトラクはトルコ語で「幽霊」の意味だそうです。

 読後感のフシギさで言えば、『見えないショッピング・モール』。これが突き抜けている。割とみんな真面目に妖しの世界を追求する中で、このなんじゃいこりゃ感。たまらん。
 ベスト3は、
3位:ザ・ホルトラク
2位:“Do You Love Me?”
1位:地下堂の査察

 幻想小説というなら『平ら山を越えて』、こっちもうまいゾ! 中村融氏のセレクションには外れがねーぜ。
 表紙を見ると大麻でラリった幻覚みたいに思えるが、大体内容に即しているんで困る。解説の通り、ブラッドベリ先生やスタージョン先生を彷彿とさせる、SFも書くけどSFにおさまらない奇想作家、こういう語り手が私は大好きだ。
 なお解説によると作者のテリー=ビッスン先生だが最近作風がどんどん暗くなっているらしい。カート=ヴォネガットによると「ユーモアを書く人は晩年ペシミストになる」……いくら作品で笑い飛ばしても変わらない現実社会に焦燥・絶望を感じて、反動で悲観的になっていく、と。これギャグ漫画家も同じようなこと言われてるなぁ。ギャグ漫画を書き続けていくと人格が壊れていくっていう話。笑いを取るにも命がけやね。

平ら山を越えて
 お気に入りの曲をかけながら、<山越え族>のおれはトラックを走らせる。その途中で、ヒッチハイカーの小僧を拾った。小僧の姿も仕草も、昔のおれそっくりだった。
 アパラチア山脈が誕生したのはアフリカが北米にぶつかって、陸地を褶曲させたことになっていたが、今ではカンバーランド・ドームが崩壊した時に残った皺ということになっている。二十年前にカンバーランド・ドームがまた盛り上がり、その皺が伸びたのだ。だからここらは平ら山というわけだ。
 平ら山に出てくるロブスターは売れば高値になるが、今では手を切っている。奴らは<隆起>が始まってから六年と経たない間に陸上に現れた。そして今では、青く光る巨大な体を持つに至った。他の惑星から来たという噂も納得だ。だが、途中でぶつかっちまったとあれば話は別だ。轢いたロブスターを手斧で叩き割ろうとした時、奴は動き出して俺の脚をハサミで捉え、引きずり込もうとした。だが、小僧の撃った九ミリのおかげで、九死に一生を得た。
 町に降りて、小僧に飯を食わせてやってからおれたちは別れた。飯を奢ったのは、その昔拾ってくれたメキシコ人の真珠を埋め込まれた回転拳銃を売っ払ったことを恥じていたからだ。戻ってくると、トラックからは九ミリが消えていた。おれは上機嫌でCDをかけた、笑わずにはいられなかった……。
・大変動が起こった後のトラック狂走曲。語り手「CD」の人物造形が実に気持ちいい。仕事の手際の良さや懐かしの音楽への思い入れ、かつての自分を重ね合わせる、ヒッチハイカーの少年への眼差し、人の良さが溢れている。
 シワが伸びて平らになった山や、青い巨大ロブスター(エビラかよ!?)に襲撃される、現実と少し違う…いやだいぶ違う世界も奇想の極み。

ジョージ
 ついに、ぼくとケイティの息子が生まれた。息子はジョージと名づけようと決めていた。
 生まれたジョージは至極健康であったが、ただの赤子ではなかった。背中に天使のような白い羽が生えているのだ!
 医者や牧師は、ジョージが奇形(フリーク)と疎外される将来を懸念して、早く切り落とすようにぼくに薦めてくる。ぼくは悩み、ケイティにも打ち明けたが、彼女は明るく笑い飛ばした。空を飛べるのに、どうして他の子と同じように歩いたりバスに乗りたがらなきゃいけないの?
恐るべき子供たちシリーズ…とは違うな。どっちかというと幼児教育に対する風刺モノか。とかく変わったものを排除したがる同調圧力は、そりゃ日本だけに限りませんわな。

ちょっとだけちがう故郷
 トロイは、古い競争場(レーストラック)ですごいものを発見した。競争場のフェンスはまるで二枚の翼のように、アーケードの全部はコクピットのように、トイレはV字型尾翼のように…墜落した巨大な飛行機のように見えたのだ!
 親友のバグと、身体の不自由な従姉のチュトと競争場を訪れたトロイは、電解質を含む飲料を与えることで、飛行機が動き出すのを目撃する。三人は飛行機に乗り込み、そして飛び立った。町を離れた飛行機は、延々と広がる砂漠地帯を飛行していく。
 目覚めた時、眼下にあった町は、彼らの故郷とそっくりだったが、何かがほんの少し違っていた。この町にもバグはいるが、シャツが違っていたし、死んだ双子の名前、トラヴィスが付けられていた。チュトは一人で歩けるのだ
 トラヴィスの助けを得て燃料を得ると、飛行機は元の町へと飛び立とうとする。しかし、歩けるようになったチュトはこの町に残ることを選んだ。トロイの胸に彼女への破裂しそうな想いが横切るが、何一つ言い出せないまま飛行機は再フライトに移る。
 飛行機は、元の町へと戻って来た。こっちの町のチュトは息を引き取っていた。だが、トロイは知っている。彼女は今もあの町で、自転車に乗っているのだ。
切ねぇー。少年期にだけ持てる奔放な想像力と、淡い思慕が抒情たっぷりに語られる。競争場を飛行機に見立てちゃう発想の自由さ、バグとトラヴィスの友情、命と引き換えに自由を得た少女、何もかもが大好きだ。

ザ・ジョー・ショウ
 入浴中、ご機嫌なCDプレイヤーの演奏が突然停止した。あたしがバスルームから出ると、演奏はやり直しになっている。不思議に思っていたところに、突然男の声がした。最初は電話機から、そして次にはTVからコンタクトしてきた。自称、TVを乗っ取った一時的電子的存在だとか。あたしは彼にジョーという名前を与えた。
 ジョーの目的は、彼の創造主とアメリカ大統領との間を取り持つこと。創造主は生物学的存在でなく、電気インパルスからなる無限の知性で出来ている。純粋エネルギー体である創造主は、運よく生じた時空のひだを通し、銀河のこちら側へコンタクトしようってわけだ。そのため意識を保つには、ある回路へ電子を流し続けなければならない……性的回路、つまり性的興奮が必要。故に、ジョーはTVを通してあたしの前に現れたのだ。
 あたしはジョーの前で仕事をやり遂げた。しかし、あの日ジョーと出会った人間はあたしだけじゃなかったのだ!
・百の理由を並び立てておいて、要は女の服を脱がせたかっただけと言うエロ話。マジでそんだけ。こんな下世話な話にSF要素を持ち込むな! と生真面目なSFファンに怒られそう。

スカウトの名誉
 ネアンデルタール人の研究家であるわたしのコンピュータに、謎のメッセージが送られてきた。執筆者は絶滅寸前のネアンデルタール人と共に生活する研究者のようで、驚くほどネアンデルタール人のことを知っていた。てっきりわたしの立場を知っての悪戯かと思ったが、どうもそうではないらしい。フィルモント・スカウト・ランチに一緒に行った友人のロンも、SFにしては粗雑な内容だという。
 メッセージは送られ続け、衰え続けるネアンデルタール人の血筋を克明に報告していく。新プロジェクトの打診が財団にあったその日、わたしは最後のメッセージを受け取り、そこで一切が明らかになった
・研究一筋の女性と滅びゆくネアンデルタール人の孤独のリンクが美しい。話の組み立てとしてはヤング先生の『時が新しかったころ』の、何気なく繰り返されるフレーズが重要なキーワードになる、やね……って、タイトルで思いっきり言ってるんだからそうでもねぇか

光を見た
 かつて、月で生活していたわたしにとって、月面の光のニュースは決して聞き流せないものだった。わたしは過去のコネを頼り、月面調査の技術者チームに配属されることに成功した。愛犬サムをお隣さんに預け、わたしは月へと出発する。
 月面から光を放っていたのは、漆黒の完璧なピラミッドだった。そこには手形があった。まるで、触れてほしいと言わんばかりの。手形に触れた者は、ピラミッドの中に入っていき、そこで荘厳な光と対面し、何とも言えない安らいだ気持ちになって帰ってくる。わたしもまた、戻るべき場所へ戻って来たという喜びに心を満たされていた。何度でも、そこに行きたいという気持ちになっていた。
 しかし、それはピラミッドの建造者たちの望んだ反応ではなかった。人間たちの変わらぬ依存心、それこそ彼らに失望を覚えさせる反応だったのだ
・月に向かうという壮大な話ながら、月に行くまでの過程とか科学的考察とかはアサーリと流す辺りがブラッドベリやスタージョンの系譜を感じさせる。SF要素は話の流れで必要なだけであって、作品そのものはSFに収まらないんだからヘンにこだわる必要はないのだ。SFというより、人智を超えた存在に救済を求めたがる依存心への警告なんだし。

マックたち
 幼女誘拐殺人犯のマックへの<決着>は、クローン技術によってつけられることになった。マックのクローン人間を被害者の親族に渡し、いかようにも始末してよい、としたのだ。クローンは火あぶり、銃殺、電気椅子、切断、思い思いの方法で殺されていた。その中に本物も混じっていたのだが、それを公表されては被害者の親族にとってフェアではない。
 中には、同情して逃がしてやったという噂もあるが、真実とは思えないし、どうせクローンの内臓器官は五年しかもたないのだ。それにしても、あんたあいつに似てるね?
・『火の鳥 生命編』を彷彿とされる、クローンの「ぐえー」話。死刑を議論する上で被害者家族の心情や権利は抜きにして語れない問題だが、それも行き過ぎれば加害者と同類、もしかするとそれ以上に恐ろしい怪物に変貌しかねない。インタビュー形式でそんな病的心理を抉り出しながら謎解きをするという曲芸的構成に至るまでお美事。

カールの造園と園芸
 カールはあたしを連れて、園芸関連の要請とトラブルに取り組んでいる。大半の商売は、ホログラムや電気樹。カールは本心では電気ものを気に入ってなかったけれど、有機芝はやめておけと説得しなければならない。大学に植えた、電気式の樫の木立のような傑作を作り出し、稼ぎも増えながら、カールは商売がうまくいっていないという気持ちを振り払えなかった。
 樫の木立が死に、ゴルフ・クラブの芝生のハードウェアを撤去した翌日、あたし、ガイアの目の前で界隈最後の有機芝が枯れていった。
・園芸に限らず、何でもかんでも電子化、アナログが失われていくことに不安を抱くジャンルは少なくない。合理主義者にとっちゃ同じなのかもしれないが、言葉や理屈で示せない、死んでいったモノってのは必ずあると思うのよね

謹啓
 トムにサンセット旅団への入隊命令が下った。リベラル派として体制と戦っていた彼にとってそれに従うことは敗北であり、信念に従って拒否するしかなかった。例え、拒否する者は自殺を余儀なくされるとしても。友人のクリフも同じだった。
 二人は愛する人と最期の時間を過ごし、別荘で薬剤キットを使用する。
 ところが監視員がしくじり、トムもクリフも死ぬことができなかった。しかもクリフは失敗の影響で脳卒中を起こしていた。苦しむクリフを捨て置けず、トムらは医者に見せようとする。しかしその行為は、死ぬべき人間が死なない、テロ行為とみなされる
 逃走の最中、自動車は滑落事故を起こし、トムとクリフを残して妻の二人は死亡する。トムとクリフは反体制派によって救助され、抵抗活動のシンボルのように祭り上げられる。反体制派の勇ましさの中に、闘争に酔った無責任さを見出したトムは、クリフを連れて施設を脱走し、今度こそ最期の始末をつけようとする。
・個人の自由と、社会体制との息詰まるような戦い。戦うのなら、勝ち目のない方を選べ、負けて当然なのだから敗北の責任を気にせずに済む。この言葉に、耳にフタせずにいられる人間がどれだけいるだろう? 奴らと違うことを証明するためには、国のために戦うことの終着点と同じ、死しかないのだろうか? そして人口過剰対策を背後に押しつけられる軍隊への召集か自殺か、実にもっともらしく美しい理由で修飾して本音を隠す、インテリ支配のいやらしさよ。
 あと監視員のカリンに病巣のすべてが集約されておるな。手順をトチって殺しかけた挙句、まっさきに心配するのが資格の喪失、使えもしない癖に銃で脅して規則に従わせようとする頭でっかち、富野アニメにも匹敵できるクソ女だ

 内容のあるなしはさておいて、インパクトなら『ザ・ジョー・ショウ』で決まりだ。過激さを上げれば二次元ドリーム文庫に収録されても不思議ではない。創作って自由なんやな。
 ベスト3は
3位:謹啓
2位:マックたち
1位:ちょっとだけ違う故郷
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テーマ : 海外小説・翻訳本
ジャンル : 小説・文学

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