読んだ本#22~一角獣・多角獣&輝く断片~

 スタージョン先生の読書記録をつけているうちに、ウムあれは最初に読んだ短編集故是非取り上げたい! と思った一冊と、新しく借りた一冊の話。

 一角獣・多角獣

一角獣・多角獣 (異色作家短篇集)一角獣・多角獣 (異色作家短篇集)
(2005/11)
シオドア スタージョン

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 輝く断片

輝く断片 (奇想コレクション)輝く断片 (奇想コレクション)
(2005/06/11)
シオドア・スタージョン

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 『一角獣・多角獣』は“短編小説作家”スタージョン先生との実質的なファースト・コンタクトになった。
 どこでスタージョン先生の名を知ったのかは覚えていない。『夢見る宝石』を手に取った時、「ああスタージョンか」と思った気はするから、短編の一つも読んだ気はするのだが。で、多分『夢見る宝石』の解説で短編の名手と聞いたので、この『一角獣・多角獣』もいっちょ読んでみっかという気になったのであろう。
 そこからが我のスタージョン先生短編巡りが始まった、という一冊だけに、やはり再読に十分耐え得る。“異色作家短編集”の名に恥じない奇天烈話揃い。これが長らく入手困難になっていたとはモタイナーイ。

一角獣の泉
 デルは屋敷の娘・リタの招きを受けて有頂天になるが、彼女から一時的に盲目になる薬を与えられ、見えない鬼ごっこによって傷だらけになってしまった。そこを訪れたバーバラはデルを介抱し、自分の見た一角獣と泉の歌を歌う。しかし、デルはバーバラをリタと思い込んで乱暴を働く。
 後日、市場でリタを捕まえたデルはあの晩についての尋問をするが、話が噛み合わない。その中で一角獣の存在を耳にしたリタは、バーバラを案内役にして泉に向かう。金の手綱で、一角獣を捕えて飼おうというのだ。
 向かった泉の先で、一角獣は現れた。だが、選ばれたのはリタではなかった
高慢チキな女が赤っ恥をかいてザマミロ&スカッとサワヤカな話。美しい話なんだけど根幹はこうだな。いい気になっているヤツが破滅するのは気持ちイイぜ(もう台無し)。しかしリタが一番悪いのはさておき、デルもかなり問題がある。まんまとリタに騙されて、そのとばっちりで一角獣と泉まで失ったんだから、バーバラにとっちゃいいツラの皮ですよ!

熊人形
 ジェレミーの子供のころ友人は熊人形であり、怪物だった。怪物はジェレミーの話を聞いて、それを養分にする。そして、彼の夢の話において、ジェレミーに生死に関わるいたずらを示唆するのだ。その中には、教授になったジェレミーの、階段教室で頸を追って死んだ娘も入っていた。ジェレミーの見た死の夢は、ことごとく未来に実現していたのだ。
 今、目の前で、ずたずたにした熊人形の見せようとした夢が実現しようとしている……。
・「恐るべき子供たち」シリーズだが、理解ない大人が痛い目に遭う従来の路線に対し、“子供本人”が牙を剥かれるとは珍しい。

ビアンカの手
 ビアンカは白痴であったが、美しい手を持っていた。彼女に意志は存在しないが、ふたつの手には、それぞれの意志があるように動く。ランはそれに見惚れ、もっと近くで観察したいがために、母親に同居を申し込む。見れば見るほど両手への思慕は募り、ついには人知れずビアンカとの結婚にまで至る。ランの心は幸せの絶頂にあった。その絶頂は、ビアンカの両手によって完成したのだ
吉良吉影を先駆けた手フェチ。この手フェチが執拗にビアンカの手を褒め立てる描写でずっと続けるもんだからなぁ。吉良に負けず劣らずキモい。このキモさと悪趣味、さすがはスタージョン先生だ。

孤独の円盤
・『不思議のひと触れ』収録なので省略。

めぐりあい
 レオはグローリアを一目見た瞬間、恋に落ちた。何から何まで、グローリアは彼にぴったりなのだ。まさに理想の恋人! しかし、レオの前に現れた首だけの中年の男は警告する。これは“シジジイ”か否か。やがてグローリアはレオを離れ、アーサーという男に走る。レオはグローリアと何から何までぴったりだ。だが、グローリアはレオのものではない、グローリアはグローリアのものなのだ
 中年の男は“シジジイ”について教えてくれる。人間の創造力には、心霊的な世界に触れ、具象化させる力がある。理想の恋人、ぴったりの異性…それは単為生殖生物の増える方法に似ている。一方“シジジイ”とは細胞核を一時的に融合させ、互いの一部を獲得して再び分離する行為。変種を生み出して、種族としての維持力を残す目的がある。
 レオとグローリアが“シジジイ”ならよかった。しかし、そうではないことを、中年の男はずっと前から知っていたのだ。
・『脳なしと火星人』にも見られた、“理想の恋人”を夢見る人への冷笑譚。あっちが等身大フィギュアならこっちは『ファイト・クラブ』よろしくイマジナリーフレンドと言えようか。にしても、これは容赦なさすぎ。全人格全存在の否定にまで至ったか、と思ったら全人生全未来まで否定されちゃったよ! きょうのスタージョン先生は一段と黒いぞ!

ふわふわちゃん
 話上手のランサムは、くたくたになるまでベネデット夫人のおしゃべりに付き合ってから、ベッドに入る。これからは夫人のいびきに耐えながら眠らなくては…しかし、夜中に異変を感じ取り、ランサムは目を覚ます。そこで目にしたのは、夫人の飼い猫バブルズ、“ふわふわちゃん”。驚いたランサムが声をかけると、猫は言葉で返事を返した。動揺したランサムはいつもの癖で(猫相手でも)おしゃべりを試みる。
 ランサムは猫が嫌いだった。その理由を“ふわふわちゃん”は骨董趣味と嘲り、ランサムを挑発する。あんたのやることなすこと、猫とそっくりだ。そして、ランサムも“ふわふわちゃん”もベネデット夫人が嫌いだ。
 違うことがあるとすれば、“ふわふわちゃん”は猫である、したいことをする権利がある。“ふわふわちゃん”はランサムも嫌いだ。
・猫がムカつく話。

反対側のセックス
 ミューレンバーグの受け持った死体は、二つでありながら一つだった――シャム双生児。それも肋骨部だけがつながり、何故外科的に分離できなかったのか、というぐらいに小さな結合部しか持たない。その死体は、死体置き場に忍びこんだ何者かによって焼却されてしまった
 その後、ミューレンバーグはレストランでとてつもなく魅力的な女性と遭遇する。我知らず再会の約束まで取り付けるが、もしかしたら彼女が殺人事件や死体焼却との関連人物なのでは? 事件を追っている記者のパジーとも連絡がつかない。
 指定された場所で気をもんでいると、そこにはパジーも来ていた。彼女も、魅力的な男性と出会い、ここに来る約束をしていたのだという。やってきた人物は死体焼却の犯人であったが、それは悪意ある行為ではなかった。その男とも女ともつかない人物は、ミューレンバーグとパジーに自分たちの生殖について解説を始める。
・「ディック先生は精神的に歪んでおり、スタージョン先生は性的に歪んでいる」とは知人氏の弁。確かに的を射ている表現だと思ふ。もっとも性愛について書きながら、下世話にならないのも特徴。スタージョン先生が語るのは行為ではなく愛し方だもんね。
 しかし“ふたなり”なんて単語が出てきたのはびびった。
kuribo03.jpg
 『めぐりあい』に出てきた“シジジイ状態”の言及を同じ本の中で繰り返してるのはYESだね。 

死ね、名演奏家、死ね
 バンドのMC、フルークは初めて上機嫌であいつのテーマ曲を味わえた。バンドリーダー、ラッチをついにフルークは抹殺したのだ
 ラッチは二枚目の好男子、しかもクラリネットの名手、バンドは彼が運営していると言ってもいい。ピアニストの娘、フォーンもラッチにお熱ときた。ミュージシャンとして成功する上に、これ以上の幸運をラッチがうまうまと手にするのを、フルークは見逃せなかったのだ。しかも、ラッチはフォーンの好意をバンドを保つために拒絶までしてみせる。ついにフルークはラッチ殺害をしようとし、一度目は失敗して、二度目は成功した
 しかしラッチは死んじゃいなかった。バンドの音楽には、ラッチがいまだ宿っていたのだ。フルークはラッチの臭いを必死で嗅ぎ取り、そしてついに出所を突き止め、消してみせる。しかし、ラッチの亡霊はフルークを怯えさせ、混乱させ、その所業を暴き立てる。それでもラッチはフルークを罰しなかった。むしろ彼に善行を施した。ラッチは永遠に、フルークの顔に刻まれたのだ
スタージョン先生のベストを挙げろと言われたらコレこれほど陰険で卑怯でいじましくて汚らしく、それでいて切なくて物悲しい話って、ない。兵役さえ許されない醜男のフルークの望みはごくささやかだ。自分にだって人並みに幸運が回ってきてほしいだけなんだ。ラッチのように幸運を享受し、らくらくと人生を渡っていくような人間は生かしてはおけない。この感情、理解できない人はいるだろうか?(いたとしたらその人はSFなんて読んではいまい) そして、フルークに共感できる人なら次の真実も理解していることだろう。本当はラッチのような人間だって幸運をつかむ努力をしており、自分はそれを怠っていただけなのだ。それだけに、余計にフルークの憎しみはいたたまれない。
 『ぶわん・ばっ!』がスタージョン先生のミュージシャン趣味の陽性なら、こちらは陰性の逸材。音楽小説としても、犯罪小説としてもハイレベルではないでしょうか。
※『マエストロを殺せ』の題で『輝く断片』に収録されているが、やはり本作はこちらの物騒な響きの方がふさわしいと思う。また、クトゥルーの四行連句や詠唱がカタカナの方がしっくりくるように、擬音語をカタカナで表現するこっちが好み。
 なお、柳下毅一郎氏の訳だと一人称が「おいら」になり、よりすれっからしの印象が強くなる。また、「ラッチ、おいらをでっかくするのはおまえにも無理だったな」というくだりは、『一角獣・多角獣』だと「おれをひとかどの人間にすることはできなかったな」とだいぶ意味が異なっている。原文を確認できないし、フルークの身長に言及したくだりは覚えがない。が、いくら顔が良くなっても低身長だけは変わらない、という皮肉のこもった「でっかくするのは~」の方が本作にふさわしいと感じる。

監房ともだち
 おれの監房にご一緒したクローリーは、胸に大きなこぶを持っていた。クローリーは妙な奴で、ベッドの上にもあがれないほどひ弱で無口、なのにおれはクローリーに一歩譲っちまう。奴の言うことをつい聞いちまう。
 その謎は奴のこぶの中にあった。こぶの中には、あいつの弟がいたんだ。弟はクローリーの脳ミソがわりなだけじゃない、クローリーも、おれも、誰もがこいつの言うことに従わなくちゃならないんだ!
 そうとも、おれはクローリーの脱獄にも体を張ってやった、だのにあの野郎、礼の一つも言いやしねぇで去りやがって。
・『こびとの呪い』的なキモ話。他人を操る寄生生物という題材はありきたりながら、語り手を収監されたチンピラに設定しているおかげで、やさぐれた皮肉っぽいラストが際立つ。

考え方
 ケリーは一風変わったものの考え方をする奴だった。その考え方のおかげで、ずいぶんうまくやってきたものだ。
 久しぶりに会ったケリーは、入院中の弟に心を痛めていた。弟の容体は筆舌に尽くし難いものだという。担当医のミルトンは、弟に恨みを持つ女が、ハイチの呪いの人形を使ったせいではないか、と酔った頭で告白する。
 わたしは女に一杯食わせて人形を奪還しようとするが、何者かがすでに目的のものを盗み出していた。その晩、ケリーの弟は死んだ。
 ケリーは枕元に現れて、こう言った。ハルを殺したものをやっつけるよ。
 二ヶ月後、ミルトンの所にケリーの弟とそっくり同じ容体の女が担ぎ込まれた。
 ケリーならどう考えるだろう。人を殺したければ人形を使え。人形を殺したければ……
 ケリー、もう俺に近づかないでくれ
女に扇風機を投げつけられたら、女を扇風機に投げつけた。この一文だけで、スタージョン先生しか書かねえよこんな変な話とワカるな。ケリーはそんな話にふさわしい変な考え方をする男なんだけど、それが行き着いた結論を想像するとゾーッとする。この奇想とショッキングなオチの結びつき、群を抜いてよい。

 いずれを切り取っても「変な話」という見所にはなりうるのだが、スタージョン先生の性愛とシジイ状態への執念を鑑みて、ここは『反対側のセックス』を本書の見所に推す。
 ベスト3は
3位:めぐりあい
2位:考え方
1位:死ね、名演奏家、死ね

 『輝く断片』の方は、おなじみの奇想に加えてミステリー、サスペンス、サイコホラー風味の色合いが強い。そしてどれもがスタージョン先生の洒落っ気ある文章のおかげで、そこはかとなく滑稽で、そこはかとなく寂しい。

取り替え子
 ショーティとマイクは遺産相続のため、伯母に赤ん坊の面倒を見られるカップルであると、証明しなければならない。焦る二人の前に、小汚い赤ん坊が現れる。それも、しわがれた声にいかめしい口調でしゃべるのだ! ブッチ、彼の正体は、“取り替え子”だった。子供の育て方を間違っている親を罰するため、本物の赤子と入れ替わり、散々に厄介をかけるのだ
 二人はブッチに赤ん坊役を頼み、伯母さんの前でベシーシッターごっこを繰り広げる。ショーティはブッチの性悪ぶりにしばしば腹を立てるがそれなりに、マイクと伯母さんは結構うまくやっているようだった。そんな日々が続き、ブッチに変化が訪れる――ブッチは、本物の赤ちゃん返りを起こしていた。ただし、人格はブッチのままで!
・異色の育児小説。主役の男女は伯母さんの財産をふんだくろうとしている、ブッチは腹黒い赤ん坊
akasan.jpg
 こんな感じ
 とロクでなしばっかなのだが、自然と育児に取り組んでいる間に本気になってしまう様が微笑ましい。特にブッチが本物の愛情を浴びて困惑する所は思わず悪意のない笑いが漏れてしまう。やっぱり家族モノって弱いなあ、俺。

ミドリザルとの情事
 夫フリッツが助けた男はミドリザルだった。ジャングルで体を緑に塗ったサルを放つと、たちまち同族に噛み殺されて、死んでしまう。ルーリオが襲われたのも、同じ理由とフリッツは言いたいのだ。
 ルーリオを看護するうちに、アルマは彼に心惹かれてしまう。フリッツはルーリオに、社会復帰プログラムの専門家として生きていくためのアドバイスを送る。集団は怪物だ。自分と違っているものなら、何でも危険とみなしてしまう。中でも、最も危険なのは性的な差異である。男性は男性らしく、女性は女性らしくしなければ、最悪の結果を招くだろう。
 話を終えると、フリッツはアルマに、ルーリオを車で郊外に送らせることを許した。事情を悟ったアルマは、それに従うしかなかった。車内でルーリオは苦笑しながら言う、彼が理解したならそういうことなんだ、と。
 最もフリッツはルーリオのことを何も理解していなかったのだが。フリッツが与えたアドバイスは、ルーリオらが地球で
どう振る舞えばいいかを学習させることになった。ついでに、フリッツの講義はルーリオが女だった場合の話だ
・珍しく直球の下ネタなオチ。暗黙の(いや雄弁か)同性愛差別に対する風刺的な意味合いが含まれていたり、特に人を選びそうな話。一応SF的なオチがついているのだが、別にそうでなくとも成り立ちそうなのは、掲載紙かそれとも作者の都合?

旅する巌
 忽然と送られてきたワイスの作品『旅する巌』は、エージェント・クリスの待ち望んでいた“美しい小説”であった。ところがそれから、ワイスはいっこうに自作を発表しない。ワイスの自宅に出向いたクリスは、こっぴどい歓迎に遭う。これが、あの美しい物語を書いた人物? そして、やっとのことでこぎつけた新作は、とんでもなく陳腐な駄作SFであった
 あまりの急変に、クリスの助手は、悪魔の人格を聖人に変えたという看板の女性、モロニーと会って相談することを提案。会談の中で、モロニーは異星人の話と、とんでもない異星の兵器について口にする
 それからしばらくして、ワイスの新作『天国の炎』が謝罪の手紙とともに送られてきた。内容は『旅する巌』に匹敵する、落涙必死の傑作。この変化に、クリスとモロニーはワイスのもとへと急ぐ。そこで出迎えたのは、別人のように穏やかなワイス。こっそりついてきた助手とも打ち解けて話をしている。ワイスの変化は、彼の執筆した場所に由来していた。そここそがあの兵器の隠された場所だった
作家の人格が作品の質に比例するとは限らない。そんな言葉を思い出した。実際巨匠と呼ばれてる人たちって人格ねじくれた……もっと直接的に言えば才能のあるクソ野郎な場合多いような……まあ、腕が良くて性格も良ければそれに越したことはないですけど。でも作者と直接やりとりする編集者なら、才能のある人格者を求めたいよね。この苦悩といい、駄作SFの例を頂戴した件といい、SFというよりは作家としてのお遊びとしてとらえた方が楽しめる。SF要素自体は『閉所愛好症』のくだりとクリソツだし。

君微笑めば
 友人のヘンリーはおれに対して忠犬のような誠実さで笑みを見せる。二十年の歳月が過ぎた後も、それは変わらなかった。おれはヘンリーを自宅に招待しながら、追っている連続殺人事件の話を打ち明ける。相手が愚かなヘンリーなら話したところでどうってことはないんだ。さて、この犯罪の裏には、おれのような非人間的人間が関わっている。そいつらは人知れず、動機なき殺人を起こしているに違いない。何故なら、連続殺人は、受益者の手によらない殺人なのだから。彼らに変わって非人間どもが犯行を繰り返しているんだ。
 それに対してヘンリーは反論する。僕らは、自己防衛なんだ、と……。
・取り柄のない人間はより劣る人間を見つけて攻撃するしかない…『ヴィーナスプラスX』にあるように、ヘンリーに対する優越感満載トークがぶっ通しで続くのを見ていて、「あーこいつヘンリーに殺されるな」とは予想していたのであるが、実は彼も「異端ぶる大衆」でなく「大衆にあらざる奇形」だったという真相には意表を突かれた。また、異常者は円グラフの外にいるが、実際のところ、円のすぐ内側とすぐ外側は円の端と端より近い、という例えの見事さよ。
 タイトルはいつもニコニコしているヘンリーと、何事も楽しみにしか感じられない“おれ”のダブル・ミーニング?

ニュースの時間です
 マクライルは実に穏やかな人格者であったが、ニュースを聞くという行為に対しては病的だった。妻にテレビやラジオを壊されたと聞くや、家を出ていくほどに――妻の想像に反して、本当にマクライルは帰ってこなかった。その間、マクライルからは識字能力が、そして次には他人の言葉が理解できなくなっていった
 妻は消えた夫について、精神科医に相談を持ちかける。精神科医の赴いた先で、相変わらずマクライルは字も言葉も理解しなかったが、彫刻や絵画に一心不乱に打ち込む素朴な生活を続けていた。精神科医の見出したところによると、彼の満足は孤独にある。自分の内部に閉じこもること、コミュニケーションの否定にこそ彼の満足があるのだ
 これは精神科医としての職業的使命に反する思想である。精神科医は、薬物を投与してマクライルを元の状態に戻す。喜ぶ精神科医だったが、マクライルにとっては再び傷つけられる人間社会への復帰を意味した。これ以上傷つけられる前に、人間をやめる必要があったのに!
・ニュース狂から出発して、識字能力と言語力の喪失、次々マクライルに起こる異常現象はグイグイ読者を引っ張るパワーがある。んが、その結末が人間社会からの逃避願望というのは、こんだけ変な前フリしておいてちょっと弱いような。ちなみに後半の展開はハインライン氏がプロットを書いていたとか。

マエストロを殺せ
※↑の『死ね、名演奏家、死ね』を参照。

ルウェリンの犯罪
 ルウェリンはアイヴィと暮らしてから、ずうっと禁欲的な生活を続けていた。しかし、同僚たちが口にする猥雑な会話にもひそかな憧れを抱いていた。僕にだって、それぐらいできる――そうは思いながらも、ルウェリンは罪を犯すにはあまりにも無知であった。なんせ現金を持ち歩くことすら理解できなければ、アイヴィと法律上結婚していたことさえ知らなかったのだ!
 それでもルウェリンは悪を為そうとし、そして失敗する。重婚が悪だと知れば、世話をしてくれた銀行員に結婚を申し込む。ところがアイヴィはルウェリンの変貌を悔やんで、結婚の無効を裁判所から取ってくる。次には殺人を決行してみせるが、ルウェリンのやったことは、殺人ですらなかったのだ
・無知は罪だと言うが、そもそも無知が罪を犯せるものなのだろうか。最終的に殺害まで犯罪がエスカレートする話だというのに、ルウェリン氏のやることなすことどっかでつまづくために、なんだかドタバタ劇のような趣きがある。息をのむサスペンスではないけれど、相当にブラックなサスペンスだね。

輝く断片
 彼は雨の中、重傷の女を担ぎ込んだ。女は大怪我で死にかけていたが、警察や病院を頼るという発想は、彼にはなかった。彼は、自分のやることをやるだけだった。ありあわせの材料を使って彼は見事な外科手術を施し、心づくしの料理で看病してやる。そのために勤め先に休みを申し出ても、誰も気にする者はいなかった。彼の勤労年数さえ把握していなかった。彼は五十三年間さげすまれ、誰からも必要とされなかった
 女は回復してきていたが、彼は彼女が何かをするのを許さなかった。今度こそ、彼は全部やってみせるのだ。彼女の必要とする、全部を―いつまでも――。
スタージョン先生自身がもっとも力強い作品のひとつ、というだけはある大傑作。『死ね、名演奏家、死ね』が小人物の悲哀なら、『輝く断片』は愚鈍の悲哀の物語。そして、愚鈍の美しさの物語でもある。何でも可能にする両手、それこそブラックジャック先生ばりの手術をロクな道具もなしにやってのける技術を持ちながら、嗚呼それなのに愚鈍故に世間の人々は彼を嘲り、必要としない。回復した女さえ、自分はあんたに必要ない、という。彼の両手は何でもできるというのに!
 世界のどこかに、おれを必要とする人がいるはずだ。その叫びはフルークの人並みの幸運が欲しい、という望みに負けず劣らず切実であり、そして純粋過ぎて胸が痛む。
 疑いなく、本書最良作。

 出来はともかくとして、エージェントの苦労話を作家の視点から書いた『旅する巌』は注目作といっていいでしょう。
 ベスト3は
3位:ルウェリンの犯罪
2位:取り替え子
1位:輝く断片
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テーマ : 海外小説・翻訳本
ジャンル : 小説・文学

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