読んだ本#15~刺青の男~

 短編小説はサクサク読めるのだが、その分一度読んだ内容を忘れやすい
 というわけで、本を読むごとに読書記録代わりに記事を書くことにしました。
 今回読んだのはレイ=ブラッドベリの短編集、
 刺青の男

刺青の男〔新装版〕 (ハヤカワ文庫SF)刺青の男〔新装版〕 (ハヤカワ文庫SF)
(2013/04/05)
レイ ブラッドベリ

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 ブラッドベリ先生の短編集と言えば、『バビロン行きの夜行列車』だな。当時は活字嫌いだったはずなんだけど、何かでブラッドベリというネームバリューを知ったのかな?

プロローグ 刺青の男
 私が海辺で出会った、全身に刺青の入った男。その刺青は見つめていると動き出し、未来を予知するという。本書に収められたストーリーは、全てこの「動く刺青」の描き出す物語なのである。
・10ページ足らずの物語ながら、この短編集全ての鍵となる。最初の数編では明確にこの刺青の言及があるのだが、それ以降エピローグまでは特に語られず。でも、このおさまりからすると、やはり全編刺青の物語と考えていいだろう。

草原
 料理から歯磨き、靴ひもを結ぶことまでやってくれる全自動家屋。子供部屋では、子供たちの望むものを映し出すスクリーン搭載。その風景が、全てアフリカの狩りをするライオンに固定されるのを知って、父親は精神の悪影響を心配するのだが、それがもっと幼稚な、己に向かう憎悪だったと知るには時間が必要だった。
・こういう、親に反逆する子供の物語ってどう括ればいいんだろう。「恐るべき子供たち」シリーズとか? ゲーム機を親に取り上げられて、涙を流すほど悔しい思いをした人なら、きっとわかるんじゃないかなあ。そう思うとSFというより児童心理ものだね。

万華鏡
 ロケットが宇宙空間で崩壊! 放り出された搭乗員は、確実に迫る死を前に浅ましい本性を剥き出しにする。人生の儚さ、つまらなさを突き付けられた彼が最後に望むものとは?
・宇宙空間に待ち受ける、確実なる死の冷たさと無機質さ、それに翻弄される人間の弱さと醜さがイヤというほど見事に書き立てられている。最期の望みが叶ったことだけでも本望だったろうと思いたい。

形勢逆転
 火星に地球からのロケットが到着する。地球は大三次世界大戦、原子爆弾の応酬で壊滅した。生き残りは火星に住む人々を頼りに脱出したのだが、彼らは白人、そして火星の人々はかつて虐待した黒人。かつての仕打ちを再現せんと、人々は憎悪と暴力をみなぎらせてロケットを待ち受けた……。
・その昔子供向け『アンクル・トムの小屋』を読んだ時は、白人種への嘔吐を催す嫌悪感と、「なんでこんな物語を大人は読ませたがるんだ?」という疑問が沸上がったのを覚えている。今読んでもここで語られている黒人差別の実態はドン引きする。同じ人間相手によくもまああんだけ非人間的になれるもんだ。まあ、そもそも私自身は黄色人種であるし、人種差別意識がないかと言われればそうと言い切れないんででかい口は叩けないのだが。
 こんだけ煽っておいて、「こりゃ避難民がザマミロ&スカッとサワヤカ話されるか?」と思わせて、
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 のは、肩透かしと言うより安心した。さすがに幻想SFの大家だもの、そのまんま報復されたら情緒なさすぎるもの。

街道
 純朴な農夫のエルナンド氏は、街道にいつもはうるさく行き来する自動車が見当たらないことに気づく。一台だけ現れた自動車の運転手は、戦争が、世界の終わりが始まったと涙する。それをエルナンド氏はまるで理解できない。
・逃れてきたドライバーの狂乱ぶりと、エルナンド氏の落ち着きが対照的。迂闊に文明社会なんてものに浸っていきているから、世界の終わりなんてものに脅かされる心理が生まれるのかもしれない。

その男
 はるばるロケットで到着したはずなのに、その星ではまるっきり無視され、隊長はくさりきっていた。それ以前に現れた「男」の素晴らしさに住民は打たれ、ロケットのことなど眼中に無し。面子を潰された隊長は男が抜け駆けをした同僚と思い込み、血眼になって探し出そうとする。それでも「男」は見つからず、その上同僚は一人残らず事故死していた。ついに隊長は「男」がどこかへ逃げ去ったと確信、一生をかけても追いつくべくロケットを発進させる。「男」を追い求める遍歴のゴールが、たった今さった星だとも知らずに……。
・功名心に取り憑かれ、ひとり右往左往する隊長も滑稽だけど、「男」の素晴らしさを滔々と語る住民もちょっとキチっぽくて怖いなぁ。

長雨
 金星の止まない雨に苛まれる、不時着したロケットの搭乗員たち。太陽ドームにたどり着けば温かい生活が待っているが、絶えず降り注ぐ雨は確実に搭乗員の精神と肉体を病んでいく。
・雨男の私にとって雨と言うのは不吉の象徴でしかない。そういう人間にとって、ひたすらぐったりする雨の描写が全編続く。

ロケット・マン
 宇宙を駆けるロボットに魅せられた父は、母と子の待つ家に戻ってきても、すぐに出て行ってしまう。何とかして母と子は家庭に留まらせようとするのだが、父のロケットに燃える情熱は止めようがない。今度もまた、父は家に居着かず、ロケットで旅に出て、そして……。
宇宙とロケットのロマーンをたっぷりと語っておきながら、この結末。確かに家を空ける父への空虚な思いも同時に口にされているのだけれど、それにしたってこりゃひでえ。

火の玉
 火星に布教に行く神父たち。地球人類とまったく異なる生態系の火星人には、きっとまったく異なる罪が存在するに違いない。そんな相手に、どうやって神父の務めを果たしたものか? 期待と好奇心と怖れを抱いて火星に降り立ったのは、生命体ともつかぬ青白い火の玉。その火の玉は、神父たちが岩に押し潰されるのを防ぎ、なんと自殺さえも止めるのだった!
異なる生命体には異なる原罪が存在する、という発想にもう脱帽。本書中最もブッ飛んだ理屈。また、神父の火の玉に面してハッスルする無邪気な冒険心も微笑ましい。同じ宗教的な話でも、『その男』より可愛げがあっていいなぁ。

今夜限り世界が
 夢の中で、世界が終わると告げられた。妻も、同僚も恐らく世界中の全ての人も同じ夢を見た。世界の終わりは確信に変わったというのに、少しも実感がない。所詮、今夜限りで世界が終るからといって、人間にはそれを静かに受け入れることしかできないのだ。だから、まったくのいつも通りの日常を送って、夫婦は眠りについた。
・「たとえ明日世界が終わるとしても、私は林檎の木を植える」この言葉を思い出す一編。世界が終わるよといきなり言われたって、人間やることはそう変わるもんでもないよなぁ~。奥さんが水道を閉めたかどうか気にするところが、グッと静謐さを増している。

亡命者たち
・まったくの健康体だった宇宙船の乗組員たちが急死していく。彼らは一様に魔女や吸血鬼、狼男といった、科学崇拝に葬られたはずの怪奇的悪夢を見ていた。宇宙船の目的地・火星には、禁書処分によって地球を追いやられた幻想怪奇小説家…エドガー=アラン=ポオやアンブローズ=ビアス、アルジャーノン=ブラックウッドらが住んでいたのだ。彼らと、彼らの生みだした怪異たちは、宇宙船に最期の抵抗を試みる。しかし、地球作家である彼らは著作がなければ存在できない。地球最後の一冊が燃やされて消えるごとに、作家も一人ずつ消えていく……。
怪奇作家の御大が次々と小説する、本書一番の問題作。遺族に怒られなかったのだろうか。しかし、科学文明によって追いやられていく文学というテーマは、『華氏451度』を著したように、ブラッドベリ先生本人にも他人事ではなかったでしょう。

日付のない夜と朝
 宇宙船の中で、ヒチコックは病んでいた。彼にとって、自分の目にしていないものは存在しない。彼がボストンにいる時、ニューヨークは死んでいる。一日逢わなかった男は死んでいる。彼が今いる宇宙船の二階さえも、見えない間は死んでいるのと同じ。新聞に印刷された小説の、自分の名前さえ信じることができない。
 そのギャップを埋めるために、上も下もない、空間しかない宇宙へとヒチコックは出たのだった。
・グレッグ=イーガンの『宇宙消失』を読んだ後だったのでなんとなく言いたいことはワカる。ほんと量子力学話は際限がねえな。

狐と森
 二一五五年の戦争下の日々にうんざりした夫婦は、タイム・トラベル企画に乗じて一九三八年のメキシコに逃亡した。つかの間の自由を謳歌する二人だが、未来からの追手は抜け目なく二人を追い詰めていく。
ウサギが森に逃げても、キツネは必ず見つけ出す
 夫婦は映画関係者に紛れて逃走することを計画する。追手も、自動車事故と見せかけて夫が始末することに成功。しかし、狐は一匹とは限らなかった。
・陰鬱な二一五五年と、陽気な一九三八年の空気感の書き分けが素晴らしい。オチをつける映画監督の芝居がかった口調はいかにも役者って感じ。憎いほどアイロニーでキマっている。

訪問者
 奇病<血の錆>に罹った患者は、火星へと隔離されていた。人々は体を蝕まれて無気力になり、地球を夢見ながら眠ることぐらいしかできない。
 そこに現れた若者は、テレパスを利用して、相手の望む光景を出現する芸当を持っていた。これこそ、患者たちの待ち望んでいた人材。そのはずが、若者は私利私欲によって生じた争いの犠牲になってしまう。
 束の間現れた自分の理想を失った虚脱感に、患者は涙する。
・自業自得と言えばそれまでなんだけど、地球を渇望する患者を前に上から目線の若者にも責任がないとは言えないわなぁ。なんというかいけ好かないという表現がぴったり。

コンクリート・ミキサー
 火星軍への徴兵を拒否し、後ろ指を指されていたエティル。彼は知っていた、地球には地球の著作に出てくるような、決して火星の攻撃に屈しない、たった一人でも万軍に立ち向かう勇気ある英雄がいる。火星が攻め込んでも無駄なことだ…だが処刑目の前に、エティルは軍に加わった。
 出撃した火星軍を待っていたのは、万全の迎撃態勢でも、孤独な英雄でもない。堕落と腐敗した歓楽街だった。おまけに、攻め込んできた火星軍を相手に映画商売を持ちかけてくる始末。
 エティルは嘆く、この街はコンクリート・ミキサーだ、我々は武器でなく歓楽に、自動車によって死ぬだろう……。
・主人公の徴兵拒否の理由が活劇小説というのもアレだが、そんなことだから折れたのだろうか。しかし、火星人の憧れ畏れた地球と、堕落した地球の対比は、痛烈な現代社会への風刺でもある。都会に馴染めない人間にとって、あの人だまりとけばけばしい街並みは、まさにコンクリートミキサー。ボトムズの予告の「頽廃と混沌とをコンクリートミキサーにかけて~」ってくだりは、もしかしてコレが元ネタ?

マリオネット株式会社
 共に奥さんに悩みを持つ男二人。その解決策に、ブローリングは本人そっくりのロボットを貸し出す、マリオネット株式会社を利用していた。たちまちスミスはマリオネット株式会社と取引しようとするが、預金残高が大幅に減っていることに気づく。妻を問い詰めようとした時、彼は気付いた。そしてブローリングも、自分のマリオネットに……。
・パーマソのコピーロボットは世界共通の願望のようだが、流石はブラッドベリ先生、強烈なドッコイ話に料理している。そして「妻を見ない夫(その逆も然り)」は、世界共通を通り越して永遠のテーマなのかねぇ。


 町は眠りから醒めた。ついに復讐の時が来たのだ。ロケットから降りた兵士たちは次々と罠にかけられ、消えていく。地球人に置き去りにされた古代種族が、疫病で滅びながらも作り上げた機械仕掛けの町、その名は「復讐」!
・その昔、怪獣模型の子供向け解説誌にこんな話があった。『のぞいた男』っていうタイトルの話で、工事現場の地下からナメゴンが飛び出し、地下鉄からスカイドンが火を吐きかける、そらぁトラウマになったもんよ。
 人を喰らう町だけでなく、喰らった人と地球に対する策略も含めてこれぞ「復讐」。

ゼロ・アワー
 子供たちは素敵な侵略ごっこに夢中になっていた。決して大人には理解できない愉快な遊び。微笑ましく見守っていた大人たちは、子供たちの無邪気さが引き起こした未曾有の危機に遭遇する。
・『草原』に続く、「恐るべき子供たちシリーズ」第二弾。漫画やゲームが子供たちに悪影響を及ぼす、なんて論者はアホだと思ってるが、善悪のわからん子供に対する、無遠慮な情報の氾濫の危険性は否定しない。そんな警鐘と感じるのは考え過ぎかね??

ロケット
 科学が万人に幸せをもたらす世界、そんな未来はこなかった。宇宙旅行なんて一握りの金持ちの道楽、しがない屑鉄あさりの金物職人に、そんな金があるはずもない。家族一人ぶんのチケットを買う金はできたが、結局誰もが遠慮して手にすることはなかった。
 やるせない思いを抱えて仕事をしているところに、ロケットの模型を持ち込んでくる客が。そのロケットを用いて、父は一計を案じた。
・大トリを務めるだけに、『ロケット・マン』とは真逆の優しい家族愛のエー話。思わず
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 と呟いてしまった。模型のロケットに偽物の宇宙でも、きっと子供たちに与えた感動は本物の宇宙旅行以上だったことでしょう。奥さんも胸を張って「世界一の父親」と言えるね!

エピローグ
 刺青のエピソードはすべて語り終えた。後は眠り続ける刺青の男の背にわだかまる空間、「見る者の未来を映す」部分が残っているだけ。そこに見た未来図に、私は一目散に駆け出した……。
・最初の数編以後語られない刺青と男が、何故本書のタイトルになっているのかを示す戦慄の締めくくり。成程どこに行ってもこれじゃ雇ってもらえないワケだ

 てなわけで18の物語+プロローグ&エピローグの感想でした。分類としてはSFだが、やっぱりブラッドベリ先生の本領は幻想と抒情やね。本書の目玉は『訪問者』。このトンデモっぷりだけでも読む価値はある。ベスト3は
3位:『エピローグ』
2位:『草原』
1位:『形勢逆転』
 で。
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ジャンル : 小説・文学

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