We are Pathfinders!#169~PFキャンペーン『ザ・ペナルティメイト・トゥルース』第七話「熱砂の秘密」後篇~

 真鍮の都に秘められた知識を得る者は、デリリウム島の真実を知るであろう。
 しかし同時に、島に住む資格も失うであろう。

 建材の全てが真鍮の神殿、“真鍮の都”。
 ホブゴブリンにとっては外の世界の知識を封じた場所、ノールにとっては禁断の地。
 そして、ベベの師・エンジャはここに迷い込み、触れた極意書から拳法を編み出したという。
 一体、この神殿に何があるというのか?
 神殿は子供らに何を伝える?
 水晶体の放つオーヴァーデビルの歌の中で、真鍮の都は鈍い輝きを放ち続けていた。

 踏み込んだ神殿の内部、壁面はびっしりと、恐ろしい程旧い言葉と獣の絵で埋め尽くされていた。その内装は、旅立ちのきっかけとなったヘシオドスの北の遺跡と酷似している。鼻頭にナイフのような一本角を備えた獣が、襟を頭部に持つ獣と人々を襲う場面や、一本角が身を丸めて眠る姿、襟の方はバラバラに砕かれ、目、鼻、口、耳を島に落下させる様などが、床から薄暗くなるほどに高い天井に至るまで刻み込まれているのだ。
 その中に、子供らは、場違いな文字を発見していた。
 自分の名前が、壁に書かれているのだ
 それぞれ、己の名前が書かれている場所に立ってみると、壁面に長方形を描いて光が走り、奥の部屋への通路を示す。
 ベベの名前が書いてあった部屋では、机の上に一本のスクロールがあった。
 中身は、これこそ師が見た極意書であったが…極意書の署名は、ベベ本人のものだった
 ガルボの名前が書いてあった部屋では、一冊の報告書があった。
 “パスファインダー協会”なる組織へ提出する書類で、ダルジャンなるジルと対決して撃退したことが記述されていた。報告者は、ガルボ本人だった
 カトーレの部屋には、一枚の楽譜があった。
 書かれていた音楽は、ひとつの音も違わずオーヴァーデビルの歌…それも最後の部分までも綴ってある完全なものである。同時に、“盲目にして白痴の神”アザトースの信奉者が歌を調べていたことへの危惧もしたためてある。この研究者の名前は、カトーレ本人だった
 ゾーラの部屋には、貴族の印章つきの書簡があった。
 海洋にて、太古の邪竜“オーヴァーデビル”の一匹が復活の兆しあり。パラディンのマンジェロと共に調査にあたれ…竜を誅する刻印、バスタード・ソードに入っているあの図象の横に、ゾーラ本人への指名があった
 ……いずれも身に一つの覚えのないことだった。
 しかし、そのどれからも自分のもの、という実感があった。全ての内容が意味不明であるにも関わらず、それら全てを意味不明と思わない自分がいた。
 どうやら、自分には、自分の知らない自分がいるらしい。まるで他人のような人生を歩んでいる自分が。
 それが何故この神殿に秘められ、また誰が何のために保管していたのか。
 疑問が渦巻く中、入口の方から轟音が響いた。
 部屋の中に入っている間に、侵入者があったのだ。
 神殿の大広間の中空には、馬のような首と、ゴムのような皮質を持つ有翼の怪物、シャンタクが羽ばたいていた。また、三つ首の猟犬ケルベロスが床の臭いをしきりに気にしている。シャンタクや上階のブリッジの影になっているが、一抱えほどのゼリー状の物質が浮いてもいる
 そしてシャンタクの首から、スルリと身を翻して子供らの前に着地したのは、屍鬼隊最後の一人、ガッシュラン。幽霊船で一度戦った、仮面のバスタード・ソード使いである。あの時と同じように、言葉もなく無機質な動きで抜剣すると、不浄のエネルギーがバスタード・ソードに注ぎ込まれていく。その力は幽霊船の戦いとは比較にもならなかった。子供らにも匹敵する、短時間の成長ぶりだった。

 かくて開始されたガッシュランとの再戦。
 同じバスタード・ソードの使い手、ベベと師に続く対決……と、思っていたのだが。
 ゾーラは真っ先に上階に潜む輩を狙って階段を登る。
一同「おい因縁の相手じゃねーのかよ!」
ゾーラ「だってあいつ強そうだし……」
 流石にTRPG歴の中で縁を振っていたNPCとの対決をシカトされたのはこれが初めてでした。びっくりした。
 ま、まあそういうことなら、とケルベロス&ガッシュランは後列へと殺到、それにシャンタクも遠慮なく攻撃の届かない安全な空中から猛火を降らせる。…固くて《踏み込み》があるんで届きやすいゾーラがシャンタクの足を止められるかと思っていたんですが。
 そいで橋の上に到達したゾーラですが、目の前に浮かび上がるのは、二本の触手を持つ人間の脳髄のような異様な影
 意志セーヴを狙い撃ちしてくるブレイン・ウーズなんで、ゾーラとは一番相性の悪い相手です。
 近づこうとすると“精神雑音”で幻惑状態にされ、足が止まったところにドミネイト・パースン(回数無制限☆(ゝω・)v)という鋼のルーチンによって、ほとんど橋の上を右往左往するだけになってしまう。ドミネイト・パースンが通ったが最後、ほぼ死に体も同然なんで死ぬ気で抵抗するものの、いかんせんファイターの意志せーヴではそれが手一杯。
 橋の上でそんなリアル鬼ごっこが繰り広げられている間に、後方では今回もカトーレの悲鳴が上がっていた
 ガルボもベベもシールドのポーションを飲むという知恵をつけたため、ACの低さは目立たず、ケルベロスの連続攻撃やガッシュランの剣戟をうまくしのぐ…が、射程15フィートのシャンタクを放置するのはあまりにも危険過ぎた。ケルベロスが片付けられてしまうと、ガッシュランは負のエネルギー放出に切り替え、シャンタクと共に波状攻撃を仕掛けて、じわじわと追い詰めていく。しかもこのシャンタク、超巨大サイズにして“つかみ”持ち。
 当然、餌食になるのは小型サイズで【筋力】が人類の最低値に近いカトーレ。
カトーレ「脱出するったってこいつのCMDいくつよ?」
GM「えーと34。対組みつきだと42な」
カトーレ「できるわけねーだろ! しかもつかまれてると精神集中にどえらいペナルティかかるし、仕方ない私は今できることをやろう! ワンドで自分を回復しつつ、身動き取れないんで顔芸で“勇気鼓舞の呪芸”を続けます
 どうですかこの死ぬまで役者を有言実行するクソ魂。数ラウンド後には確実な死が待っているというのに芸を止めようとしない。不肖GM、ここまでキャンペーンを進めてきて一番感動したシーンかもしれない
 ベベもつかみの餌食となったのだが、“連打”を持っている彼女にとっては思うつぼ。さらに事前にカトーレのヘイストを受けていたので、首相撲からの膝地獄が火を噴き、たまらず投げ出してしまう。もちっと知的なモンスターならつかみには行かなかったでしょうがなぁ。
 それにしてもカトーレの姉貴ぶりは特筆に値する。姉貴度で言えばプロシュート兄貴に匹敵しますよ。
あともうちょっとで敵のノドに食らいつけるってスタンドを決して解除したりはしねぇッ!たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともなッ!
 あの名言を実行に移せるPCなんてそうあることじゃありません。なんか、組みつかれて瀕死になりながら呪芸を発動し続け、歌の終わりと共に死ぬような最期が見えた気がする
puroaniki.jpg
こんな感じ。
※この発言を覚えておくと、次次回のレポートがより面白くなります。お楽しみに。
 わかったよカトーレ姉ェ!! 姉貴の覚悟が!「言葉」でなく「心」で理解できた!
 と奮起したかどうか知らないが、ベベは機会攻撃覚悟で階段を駆け上り、飛び蹴りでシャンタクの頚椎をヘシ折る。ガルボもガッシュランの攻撃をくぐり抜け、ついにカウンターのクリティカル・ヒットで仮面ごと叩き割った。…ゾーラも必死で追いついたブレイン・ウーズを《踏み込み》でやっと倒すことに成功。乙カレー

 ガッシュランの仮面の下には、やはりマンジェロの顔があった
マンジェロ「お前たちは…俺は、崖から落ちて気を失って、それから何があったんだ……」
 シルバも肩で息をしながら、真鍮の都へとやってきていた。
シルバ「…止めてくれたか。お前たちなら、やってくれると思っていた」
 シルバの兜を脱いだ素顔…それもまた、マンジェロの顔だった
 驚愕する子供らを制して、シルバは神殿の奥へと急がせる。
 最深部にも、北の遺跡にあったものと同じ祭壇があった。その上では、ルートが思いつめた表情で待ち受けている駆け寄るガルボを蹴り返しつつ、ルートは静かに告げた。
ルート「やっと、全てを伝える時が来ました。私の感じ、知り得た全てを今、話しましょう…」
 子供らの顔から、眼球、耳部、口、面当てが抜け出て、ルートのいる祭壇の上へと集まっていく。全ての部位がルートの周囲で静止すると…それぞれの部位に重なる形で、襞飾りを首に持つ、巨大なドラゴンの姿が浮かび上がった
 子供らに、ルートは自分の本当の名を告げる。“全能なるものアルカニス”。はるか古代、強大なクロマティック・ドラゴン“オーヴァーデビル”に対して立ち上がったブラス・ドラゴン。それが彼女の正体である。
 かつて、世界中をクロマティック・ドラゴンが荒らし回った“オーヴァーデビル戦役”において、彼女はブルー・ドラゴンの“追放するものドロマーと熾烈な戦いを繰り広げた。
 その争いで、アルカニスの肉体はバラバラに引き裂かれてしまったが、ドロマーを永遠の眠りにつかせることにも成功した。あのトログロダイトの使っていた、脳髄を抜き取る秘術を応用することで、肉体と精神のつながりを切断してみせたのだ。精神の制御を受け付けなくなった肉体は、最早眠れる容れ物に過ぎず、洋上へと落下していった。
 その場所こそが、デリリウムのある場所。本来、デリリウムは砂と椰子の木だけの浮島程度に過ぎなかったのだ。この真鍮の都の周囲、その砂地が本来のちっぽけな面積なのだ。
 ドロマーは海中に沈んで目覚めることのない精神の牢獄に閉じ込められ、肉体を失ったアルカニスは意識体として、ドロマーの監視役となった。ドロマーの執念はそれでも、屈辱と幽閉への怒りを忘れず、眠りながら強烈な悪意という形で世界に害を成そうとした。しかし、この精神的な攻撃も、意識体とアルカニスにとって封じるのは可能なことだった。
 それが、ドロマーの意識に何者かが接触することで、変化が起きた
 浮島の陸地が広がり、草が生え、川が流れ、森ができ、沼ができ、山ができた。
 やがて人が生じ、ドロマーの復活を恐れる者と望む者が現れた。
 アルカニスは戦慄した。
 これは、ドロマーの妄想が現実化しているのだ。
 “雲の壁”に囲まれたデリリウム島は、今や単なる夢ではない。物質化した、ひとつのポータルとしてこの世界に食い込んでいる。さらに、人々は“蒼い野獣”という形で刷り込まれたドロマーの復活を意識することで、実体化はより克明に、現実味をもって加速していく。
 意識体であるアルカニスに、この侵攻を食い止める手段はなかった。全てがドロマーの創造物である島では、ドロマーに逆らえる者はいない。辛うじて、ドロマーの夢に乗る形で、ドロマーの世界に組み込める範囲において、“蒼ざめた月”に抗う者を登場させ、またいつかこの島の真実を伝える方法を作り出す…“真鍮の都”を建造することぐらいしかなかった。
 そんな時、一隻の船が漂着した。それぞれの目的でやってきた冒険者を、その船は乗せていた。
 カトーレやべべ、ガルボはアザトース教団の残党や加担する者をそれぞれの角度から追って、ゾーラはマンジェロと共にオーヴァーデビルの調査のために……。
 入り込めるはずのない船が何故来られたのかはわからない。しかし、彼らはこの島において、数少ないドロマーの創造物でない人間である。ドロマーの支配を受けない者たちである
 冒険者たちは、夢に組み込まれ、クリフの息子として村に集った。そして、アルカニスはルートという幻想的な存在を取ることで夢に馴染み、婉曲的な形でドロマーとの戦いに導いた。最初から真実を伝えなかったのは、ドロマーの夢の支配が強力である間は、単なる絵空事となってしまうから。“蒼ざめた月”との戦いを越えて、目・耳・口・鼻という部位を集め、真鍮の都を訪れるという、いかにも冒険譚という過程があってこそ、初めてアルカニスの語る言葉は現実味を持ってドロマーの支配に対抗できるのだ
 それに、無理にこの世界の真実を気づかせた場合は、島の住人としての意識と、本来の意識が齟齬を起こす危険があった。その危惧が現実となった場合が、マンジェロだった。マンジェロは海難事故で島の真実を知ったが、それがために肉体にゾーラらの兄という意識を残したまま、本来の意識が分離してしまった。そして、肉体は“蒼ざめた月”に拉致され、屍鬼隊の一人、ガッシュランとなった。
 意識体のアルカニスの助力を受けて、仮の体を得、本来のマンジェロはシルバとしてゾーラらを影から支援してきた。正体を明かせなかったのは、自分と同じ、意識の分離を誘発する危険性があったから。シルバの鎧の下はがらんどうだった。意識だけの存在であるがため、首から上以外の肉体を持っていないのだ。
 この世界は全てが偽り、ドロマー復活のためにしつらえられた劇場と役者。子供らは、その舞台を覆すことができる唯一の存在であると同時に、島の外での人生を持つ者なのだ。もしもドロマーとの戦いを終えたとしても、いつか真実を知って現実と見つめ合う日が来る。だからこそクリフは、今際に「自分の人生を生きろ」と言ったのだろう。
 この舞台を作り出した人物に、アルカニスは心当たりがあった。
 デリリウム島の現実化のきっかけとなったのは、ドロマーの精神にある人物のサイキック的接触があったことだった。そのやりとりがあってから、夢の現実化という、まさに悪夢のような現実がデリリウムに生じ、今日まで世界を侵食してきたのである。
 その者の名はマルキサス往古の時代にアザトース教団員のウィザードであり、“蒼ざめた月”の最高幹部である

 ……つづく。



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