旅する文学館

 ここ最近集中的に書いた椎名さん関連の記事は、こちらのサイト“椎名誠 旅する文学館”を参考にしております。
 建物を持たない文学館という謳い文句通り、インターネット上で開館している椎名さん関連の情報局。著作や旅行記録のデータベース化がされており、感想記事を書いたり新作旧作をチェックしたりする際には大変助かる。各所に使われているイラストが、愛嬌があって微笑ましい。沢野ひとしさんではないようだから、これは椎名さんの手によるものか? しりあがり寿的な味ですな。
 最も読み応えがあるのは、椎名さんご本人と名誉館長・目黒考二氏が著作にまつわるエピソードを話し合う椎名誠の仕事”コーナー。『自走式漂流記』や“思えばいっぱい書いてきた”でも自作に対するコメントは掲載されていますが、改めて過去作への思いや評価を友人同士の目線で語られるのは、ファンとして大変興味深く、よろしいことだと思います。基本的に96年までのコメントは『自走式漂流記』の再録ですしね。気の合った仲間同士の会話というあんばいで読み物としても面白い。映画を撮り始めた椎名さんに対し、目黒氏は小説に専念すべきだとずっと批判してきていた、椎名さんもこの頃ほどの筆力はないと頷く(『アド・バード』回より)姿には当時の熱量と時代の経過を覚える、なかなかのドラマであるな。
 また椎名さんの古い友人であり、味噌蔵に閉じ込められるほどの活字中毒者であり、クール印のヒロオカ(『がんばれ!! タブチくん!!』が元ネタ?)と称された東ケト会が釜炊きメグロ氏だけあって、その評価はスルドク容赦がない昔大好きで、今でもかなり好きな初期エッセイがボロクソな評決を下されているのは「たはー」って感じです。そういえば前回俺がホメてた『もう少しむこうの空の下へ』も女性が印象を残すとしながらも、「椎名の作品のなかでそれほど優れた出来の作品ではないと思うんだけど(笑)」という評価で、椎名さんご本人も「まあな」と認めている。たはー。
 そういえば『長く素晴らしく憂鬱な一日』は傑作だという人と大失敗作だという人で真っ二つに分かれる作品だった、とおっしゃられているが、その大失敗作と言っているのが誰であろう目黒氏で、顔を合わせる度に「あんなにつまらない小説は早くやめたほうがいい」と言っていたらしい。あんまりつまらないつまらないと目黒氏から言われたもんで、椎名さんもやる気がなくなってやめちゃった、というくだりは爆笑してしまいました。この回、後半椎名さん「うーん」としか言ってないし。
 勿論目黒氏が太鼓判を押した作品は沢山あるし、私のイチオシ作が絶賛されているのを見ると気分よく嬉しくなる。誉七貶三などと揶揄されていた書評界に、『本の雑誌』創刊当時からハイキックを浴びせてきた硬骨活字中毒者だけあって、おためごかしの気を使った発言はいらないのだ。椎名さんとの間柄であるしな。『みるなの木』回は、“思えばいっぱい書いてきた”の意気込みと合わせて読んでほしい。『春画』『かえっていく場所』、この「暗い私小説」二冊に目黒氏も惜しみなく高評価を与えているのを見ると、筆者の受けた衝撃は一過性のものではなさそうだ。こうして評価されているのを目にしたら、手放してしまった昔の作品もまた読みたくなってくるなあ。『問題温泉』とか探せばまだ見つかるかしら。
 自他ともに忘れっぽいと認められている椎名さんであるが、目黒氏もかなり忘れており、二人してそっくり忘れている本が多い、というのも知った。『赤眼評論』の回なんて全然内容に触れてなかったりするし。ま、そんなところもご愛嬌という事で。
 ここで目黒氏が提案している「北政府ものを集めて『続・武装島田倉庫』としてまとめて読みたい」というプロジェクトには、大いに賛同したい。そんなものができちゃったらシーナ・ワールドアマチュア研究家として垂涎必携の一冊ですぞ。椎名さんは及び腰のようなんだけど……。

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テーマ : 小説
ジャンル : 小説・文学

読んだ本#36~もう少しむこうの空の下へ~

 椎名さんから離れてからも、暫くはちょこちょこ出版された書名をチェックしていたものだが、この本は全然聞き覚えが無かった

 もう少しむこうの空の下へ

もう少しむこうの空の下へもう少しむこうの空の下へ
(2000/07)
椎名 誠

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 最近(この「最近」とは10年ぐらい前までを含むおじいちゃんの「最近」である)出た本なのだろうか、と思って初出を見てみたら、なんと一番古い作品が1995年でびっくりした。『自走式漂流記』の出る前ではないですか。確かに『白い馬』が「新しい映画」と表現されているから、その時分でもおかしくはないんですが。98年あたりまではまだ追っかけていたのだがなあ……と首をひねっていたところ、第一刷は2000年だったと聞いて納得。毎回20枚と少なめの分量に、ほぼ隔月のペースなので時間がかかったんでしょうか? 確かに最後の作品は1997年の8月号に掲載、とあるから、本にまとまるまで3年のスパンがあることなんて不思議ではない……のかな。出版業界の事情は全然知らんので何とも言えませんが。
 それはさておき、椎名さんの文章は読んでいるとなんか心が優しく落ち着くものがある。思い入れがある、という贔屓目を差し引いても、つまんないことですぐに荒れたり浮ついたりするいささか情緒不安定気味な筆者の精神を静かに大人しくセンチにしてくれる、というのは、これは作家の力量というものではないかナ、と素直に感服したい。
 本書は時期的に先ごろ紹介した『春画』、鬱期を前にしてなのか、文章に哀切が漂っているのであるが、その哀切が程よくてしみじみと良い。「暗い私小説」はちょっと暗過ぎて時々大丈夫かなあ、と心配してしまうこともあった(それ故迫真の重苦しさがあるのですが)けど、この『もう少しむこうの空の下へ』は、寂しさを臭わせながら、それに沈み込まないバランス感覚がある。物語は椎名さんが海べりの街へ旅立ち、そこで出会う人々の話。大きな事件があるわけでもなく、(創作も混じっているので本人というわけではないが)椎名さんが見たまま感じたままを訥々と語っていく。島でひとつになりそうな男女をひそかに期待を込めて見つめながら、後にもう一度訪れた時結局そうはならなかったことを、気を落とさずに「人の生き方はそれぞれだから……」と、ただしずかに眺めている。目の前を過ぎ行く事物を観察する作家としての視点と、それを処理する自己の内面、その距離感が私小説路線の中でも特に巧く表現されている気がするのだ
 このひとつになりそうでならなかった男女の話、そして去りゆく女の話、最後の『そこにいけば……』は本書の中でもトリを飾るにふさわしい出色の出来。前日譚『花火のまつり』を踏んでからのこのラストからは、人生のままならなさへの嘆き、苛立ち、そして所詮は他人事という諦め、いろんな感情を見て取れる。全体的に静かで、何が起こるでもない、起きても穏やかに流れる語り口調が続いていたのが、最後の最後で激しい女性の人生に迫りながら吐露された様々な感情の波には、完全に不意を突かれた。称賛していた絶妙な距離感がここでは敢えて破られ、万物流転諸行無常、人生なんてそんなものと物思いながらも現実を俯瞰で見ていた作者の視点が、一歩踏み込むのを感じた。それだけにこの感情の噴出は強烈な印象を残してくれた。去りゆく女の話の後に、海を眺めて東京で一旗揚げることを決意し、猛烈な仕事量をこなしてついに実現した居酒屋の経営者の過去を置くことで、「別れ」にそっと希望を添えて「旅立ち」に仕立てる構成も心憎い。この二篇だけでも、筆者には当分忘れ難い一冊になりそうだ。
 仕事上のいさかいや友人の死、不眠症の気配など鬱期の片鱗を窺えることもあり、「明るい私小説」から「暗い私小説」への橋渡し的な意味でも、価値ある一冊と言えましょう。
 それにしてもこのタイトルは美しい。『さよなら、海の女たち』『かえっていく場所』に並んで、椎名さんの著作の中でも屈指の名タイトルではないでしょうか。

テーマ : 小説
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CD&WET#05~アーバンなひと時~

 セッション前の買い物をスーパーで済ませていたら、袋詰めをしているおっかさんの周りで、小学校低学年ぐらいの子ゼルが「アンダカヴァ! アンダカヴァ!」と叫んでいた。
 買い物客のショーネンが神業を使えるとは流石三鷹はアーバンは街だな! と感心した。しかしその年からスタイルをクグツにして良いものか。そして一体アンダカヴァアンダカヴァって何をアンダカヴァするのだ、こっそり買い物籠に入れた食玩とかかなぁ、とか万物をTRPGを基準にとらえる悪しき思考をしながら、セッション会場に向かったのであった。



トーキョーN◎VA THE AXLERATION (ログインテーブルトークRPGシリーズ)トーキョーN◎VA THE AXLERATION (ログインテーブルトークRPGシリーズ)
(2013/09/06)
鈴吹太郎、F.E.A.R. 他

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D&D5e余話#73~D&Dパズル“イリューソリィ・スクリプト”第一問~

 今回は息抜き記事のパズルです。
 ↓のお絵かきロジックには、5eに登場するあるクリーチャーの姿とモンスター・マニュアルの掲載ページが隠されています。さて一体誰でしょう?

puzzle_dd_01.jpg

●注意点……
・クリーチャー名でなく掲載ページとしたのは、姿の前にクリーチャー名が浮かび上がっちゃったら解き明かさなくても正解しちゃうので。まあページ数が出たらMMを見れば同じことだがな! 名前よりは少し変化球で、それだけでは即答しづらかろうという配慮。
 モンスター・マニュアルを持ってない人はページ数だけでもよかとよ。
画像を作る際の都合上、アンチエイリアスがかかっちゃってるので、デジタル上だとちょっと面倒だと思います(気合を入れればアンチエイリアス抜きでもできますが、それだとEncountersのレポートを書くより時間と労力を浪費するので)。DLしてからお好みの大きさに印刷するのがオススメ。
・一応、完全理詰めで解けるようになってるはずです。
・ヒント1。ゴリラーマンではありません。
・ヒント2。アナゴさんでもありません。

 正解は↓続きにて。

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テーマ : TRPG
ジャンル : ゲーム

D&D5e余話#72~D&D Encounters『Elemental Evil:Princes of the Apocalypes』第三回レポート~

 本Seasonの戦闘はどうかって?
 運が悪けりゃ死ぬだけさ! 運が良くても誰も知らない♪

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テーマ : TRPG
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読んだ本#35~超常小説三冊~

 私小説の次は超常小説の話を。

 チベットのラッパ犬

チベットのラッパ犬チベットのラッパ犬
(2010/08)
椎名 誠

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 現実の地名や国際情勢に則した『ひとつ目女』に対し、こちらはあの謎めいた単語“北政府”が中心で、おーこれはより直接的な『武装島田倉庫』の続編か、と喜んだのだけれど、ちょっと期待が大き過ぎたのかもしれない。
 あんまり綿密なプロットを立てない椎名さんの行き当たりばったり感が悪い意味で出てしまい、小規模な事件が起きてはその場を凌ぎ、の繰り返しで盛り上がりに欠ける。お待ちかねのサイボーグ犬になってからのアクションも発想はいいのだが起伏の不足した展開は変えられず、主人公の追ってきた標的と対面する結末も取ってつけたようで、消化不良な印象は否めない。SFに追い付くほど発達した近代科学をうまく取り込んでいるし、キョングとの友情など見るべきシーンもあるだけに惜しい。

 楽しめた、というならこっちの方が上。

 飛ぶ男、噛む女

飛ぶ男、噛む女飛ぶ男、噛む女
(2001/10)
椎名 誠

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 考えてみれば、ちょっとずれた現実を題材にした超常小説も椎名さんの作風のひとつであった。すっかり忘れていた。執筆時期が『春画』と同時期、つまり鬱期にあった頃で、しかも椎名さんご自身を度々モデルにしている(『中国の鳥人』が言及されたり)。ために、現実と虚構の境がいつも以上に曖昧で、かつ真に迫った狂気が覗く。『かえっていく場所』などでも触れられていた、椿の木から友達を落下死させる文字通りの悪夢がかなりのスペースを占めており、この時期相当にこいつのリフレインに苦しめられたのだろう(この悪夢が登場する中では、『樹の泪』が一番印象的であった)。『自走式漂流記』の『書けなかったこと』に出てきた、「夜中ベランダから見下ろしたら、庭でしゃがんで見上げていた」女性と思しき“K”にまつわる煩悶も、より現実の椎名さんとのリンクを強固にする。あまりにも記憶が生々しくて書くのを断念した、とある書けなかった理由に恥じず、ついに手を付けたこのエピソードはじっとりとした恐怖を孕んでいる。
 これ以前の作品と比べて性的な要素が多いのも、そんな不安定な精神の現れと思われる。家を捨て家族を捨て、ゆきずりの女性と一緒に何処かへ流れていく――椎名さんに“火宅の人”願望があったことは、文体から荒々しさが抜けてきた『パタゴニア』『風景進化論』などで語られていた。後にその願望は奥様のノイローゼや子供たちのアメリカ渡航などで自分が家を守らねば、という使命感に取って代わられ、“火宅の人”ならぬ“お宅の人”(このギャグは傑作ギャグだと思う)となるのだが。揺れ動く心理の中で、再びそれがぶり返して作品となって表出したとしても、無理のないことだ。
 まったく架空の人物が主人公の物語も収録されているが、全体に漂う妖しい気配は共通している。「かなり思い切った題材とテーマに挑んだ」と作者自らおっしゃっているように、これまでの超常小説ほど現実離れしておらず、さりとて決して現実的ではない不気味さは、椎名さんの小説の中でも異質だ。最後の『オングの第二島』で、主人公は急速に精神の平衡を取り戻すのであるが、そこに至るまでの経緯は結局のところ、やっぱり夢か幻のような確信の持てない出来事に占められている。精神的に不安定な時期にだけ書けた一冊なのではなかろうか

 三冊目は新作。

 EVENA

EVENAEVENA
(2015/01/26)
椎名 誠

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 意外と書かれることのなかったクライム・アクション。無頼の徒による暗闘はSFでしばしば取り上げられる題材ではあったが、架空であるにしても現代の時間軸で扱われるのは珍しい。もっとも分類としては、若かりし日に漲っていた闘争本能と行き場のない鬱屈を描いた『黄金時代』などと同じ路線なのではないかと思う。新境地と言えるほど新しく感じなかったのは、そんな既視感のせいか。
 本書では舞台設定の目新しさよりも、久々に(と言っては失礼だが)構成力に驚かされた。SFや超常小説だと、大きな事件は起きない代わりに次から次への異常な情景の描写で攻めてきて、その空気感で読者を飲む手口が多かったのだが、本書の物語の組み立ては一味違う。「おれ」が冒頭に飛び込んだバーの客たち、「おれ」をヒデヒコさんと間違える老婆、「おれ」をハメた「頬こけ」や「走り屋」、給仕の「オリーブ」……初見ではその場その場だけの要素かと思わせておいて、それらが物語が進むにつれて結束し合い、最終的に大金を巡る策謀に収束していく流れは、流石に歴年の蓄積のワザである。特にラスト、「おれ」の物語が始まるきっかけとなった「走り屋」の手口を使うのには「おおっ」となった。見事な話のたたみ、圧巻の試合運びからのスモールパッケージホールドだ。
 登場人物たちの関係が明かされていくにつれ、どんどん得体の知れない人物になっていく“こぐれ”こと「頬こけ」の存在感は、もうひとつの作品の魅力のひとつと言えるだろう。後半はこいつを出し抜くか、こいつに出し抜かれるかの対決になってくる。本書は「おれ」のストーリーであり、「頬こけ」のストーリーでもあり、「頬こけ」をもう一人の主人公と認識しても、それは過言ではない
 現実の日本に比べて極度に治安が悪化していることや、危険なドラッグである“エベナ”が『ひとつ目女』にも名前の上がっていることを考えると、もしかしたら『武装島田倉庫』以前の物語なのかもしれない。シーナ・ワールドSFとの関連を示唆する意図があるのだとしたら、こちらもシリーズ化を期待してしまう。

テーマ : 小説
ジャンル : 小説・文学

読んだ本#34~暗い私小説、そして明るい私小説~

 以前紹介した『大きな約束』の前史となる二冊を読んでギョッとした

 春画

春画春画
(2001/02)
椎名 誠

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 かえっていく場所

かえっていく場所かえっていく場所
(2003/04)
椎名 誠

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 『大きな約束』でも死の影は端々で意識されたが、この二冊はより明確、特に『春画』は死んでいった人々、死にゆく人々の物語と言って差し支えないだろう。あのエネルギッシュだった椎名さんがこんな暗い話を書くなんて……。本当に「明るい私小説」と称された『岳物語』と同じ人なのだろうか? と思われても不思議ではない。「こんなに弱気な椎名さんを見たくなかった」という読者の感想もむべなるかな、である。
 椎名さんご本人の口から語られたことによると、この時期「」であったらしい。そうした気持ちの落ち込みが直接反映されてか、『春画』全編にはどうにも鬱屈とした気配が漂っており、話題そのものも自分が後妻の子であったこと、義母との結婚前の不和、ために飛び出すように奥様の家を出ていったことなど、今まで語られてこなかった過去に踏み込んでいる。奥様の計画しているチベット旅行への同行に対するわけのわからない気おくれ、それに端を発した夫婦間の隔絶など、現在進行系で語られる事柄もどうも穏やかでない。愛犬モリチャンの死と思しき描写は、その行雲流水(のほほん)とした性格を過去のエッセイで知っているだけに胸が痛んだ。その死をすぐに伝えられない椎名さんにも。
 『かえっていく場所』になると、それから気持ちが上向きになってきていたとおっしゃっているが、物語の始まりは奥様の更年期障害と明るくない。椎名さん自身も不眠症に悩まされ、それを紛らわすための飲酒に壊れていく自分を自覚し、恐怖している。お子様達の父親はどうも元気が無いぞ、という意見に反発しながらも、心のどこかで認めている椎名さんがいる。
 暗さでは『春画』だが、衝撃度ではこちらの方が私には上だった。本書で語られた、椎名さんの年上の友人がある日突然壊れてしまったくだりには、かつての読者として「まさか」と愕然とした。「椎名さんの読者なら、すぐに名前が浮かぶはず」という文庫版の解説の通り、私にも一読で推測することはできた。しかし、推測すればするほど信じ難かった。その方ほど、睡眠薬と通院で壊れてしまうような精神状態と無縁の人物はいないだろうと思える、頑健なイメージだったからだ。現在では、椎名さんのエッセイなどに再び登場するようになり、間柄も復旧されたようで安心した。
 両書で共通した心の支えはご家族、特にご子息と娘さんの活躍。最早すっかり大人と呼べる年頃になった御二方は、アメリカからはるばる日本を訪れ、それが椎名さんや奥様の励ましになっていることが窺える。『かえっていく場所』で、娘さんが翻訳スタッフとして父の椎名さんと一緒に仕事をしているのには、何やら感慨深いものがある。また小学校の生徒への模擬授業における、子供たちへの視線は優しい。着実に一歩一歩「死」へと近付いていく一方、新しいいのちへの期待は忘れずにいるようだ、と少し安心する。
 なお、『春画』で書かれている酒場で出会った女性と夜を共にしたエピソードが創作であることは、筆者にはすぐにワカった。昔からストレートな恋愛は書きづらい、とこぼしているように、椎名さんの作品における女性関係は、どことなくつくり話っぽさがある。今回でいえば唐突なベッドイン、投げやりな女性の態度は以前の作品で見た流れで、これはどうも実話ではなさそうだな、と思ったらその通りであった。椎名さんの作品から離れていたが、我が嗅覚はそうした臭いを覚えていたと少し嬉しくなった。

 スーパーエッセイなどと呼ばれた『哀愁の町に霧が降るのだ』のような作風が抜けた時寂しかったように、『岳物語』の伸びやかな「明るい私小説」から変わっていったのもまた寂しいものである。が、周囲の人々の死や病気、自身も深刻な不眠症に悩まされれば、こうもなろう。また私はこの椎名さんの「暗い私小説」も好きだ。これはこれで新境地として、楽しみにしていけばいいだろう……。
 と思っていたら、またまた「明るい私小説」を椎名さんがやってくれた。読破順が読破順だけに、あまりの落差に「ややややや」とややや化した。

 三匹のかいじゅう

三匹のかいじゅう三匹のかいじゅう
(2013/01/04)
椎名 誠

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 『大きな約束』でスポットを当てられていたお孫さんたちとの交流が、ここでは主題となっている。つまり全編じいじいバカ。かつての岳少年を彷彿とさせる三匹のかいじゅうの起こす大騒動、それを綴る椎名さんの筆は実に楽しそうでノッていて、心の底から新しいいのちを愛そうとする姿勢が伝わってくる。あんまりにもあんまりなじいじいバカっぷりに、思わず頬が緩んでしまった。これがノスタル爺ならぬ育ジイか。
 彼らの元気いっぱいな姿にあてられてか、これまでの私小説に差していた影はだいぶ鳴りを潜めている。一時期の「鬱」を客観的に見られるほどになっており、危険な状態からは脱することができたようだ。また自分のじいじいバカっぷりを書くことが楽しくなっているようで、文体が実に軽快なのである。この気分の上向きは、『大きな約束』でもそう見られなかった傾向だ。病院のパーキングが整備されて、これなら安心だ、と思った直後、だめだだめだ、三人の可愛いマゴを誰も病院通いなんてさせないぞ、と激しく頭を振る箇所には、かつて『岳物語』の『インドのラッパ』を読んで以来の気分のいい笑いが出てしまった。私小説で大いに笑うなんて何年ぶりだろうか?
 無論、本書でも死んでいった人々、死にゆく人々の話も上がるが、それらは孫たちに囲まれた、ささやかだが心和む生活からの連想であり、やはり主眼は新しいいのちたちに置かれているのだ
 本書がものすごくいいのは、「父」となったご子息を見るかつての「父」という二重の構造になっているところ。アメリカから帰国したご子息は、もう一度アメリカへ渡るのか、それとも日本に居着くのか、選択を下せぬまま綱渡りのような生活を強いられていたらしい。結果として就職活動はうまくいくが、各地を飛び回っている間に琉太君の骨折騒ぎが起きてしまい、しかもその直後に海外に出なければならないその心痛たるや、察するに余りある。実の父である椎名さんなら、尚更敏感に察したことだろう。アメリカに戻るか否かの問題についても、椎名さんはご子息らの迷いを感じながらも、彼らの人生の大きな流れにちょっかいを出すまいと口を閉ざす。孫を心配する祖父としての心情と、子を案じるご子息の想いを推し量る父としての心情、この二つの視点が同居しているのが、ものすごく私小説としての深みを増していると思うのだ。

 東日本大震災と、原発事故の影響を考えて沖縄に向かうのは、過剰反応と感じる人もいるだろう。が、幼い家族を預かる親としては無理もない心情だと思う。「何の根拠もないけど何とかなるんじゃないかなぁ」という理由で何もしなかった私よりは遥かにマシだ。とは言えあの時、公的な発表で信頼に足るものは何一つなかった。かといって、市井の人々の間で氾濫した悲観論も楽観論も同じことだった(きょうび「日本終了」…日本に東京でも米国でも好きな地名を入れて下さい、会社名とかでも結構…なんてタイトルのスレッドが毎日のように立つぐらいだし)。逃げると言っても、急に頼れる先なんて筆者にはなかった。そもそも実家や親戚の住処は事故現場に近づくことになる。「どこへ逃げていいのかワカらないなら、それはどこにいたって同じことじゃないかなぁ」というあやふやな根拠をもとに、私は同じ生活を続けた。
 幸い、筆者は今のところ健康を特別害することもない。椎名さんの沖縄避難は取り越し苦労で済んだようだ。言うても十年二十年先に影響が出るかもしれないからまだ断言はできないが。筆者はあと四十年ぐらいは生きていたいけど、今ポックリ逝ってしまっても、正直な話悔いが残るとすれば5eのキャンペーンを立ち上がることができなかったこと、手持ちのキャンペーンが完結しないこと、参加しているキャンペーンのメンバーに迷惑がかかること、ぐらいのもんである(嗚呼ダメ人間)。が、人の親ならそんなことは言ってられまい。日本中、あるいは世界中で、今日も星の下椎名さんやご子息のような不安を抱えながらも健やかなれと願っている親たちがいるのであろうな(遠い目)。

 息子と父の触れ合いを書いた『岳物語』から時は経ち、孫と祖父の触れ合い、そしてもう一度息子と父の関係が描かれるようになったのを見ると、年を取ることも決して悪い事ばかりじゃないな、と思える。本書の出版から二年が過ぎ、三匹のかいじゅうたちも、いずれも難しい年頃にさしかかっていることだろう。願わくば『岳物語』で椎名さんとご子息の間に生まれた断絶が再来しなきゃいいが……と大きなお世話を考えてしまうけれど、大丈夫ですよね、きっと。父と子ならともかく、祖父と孫って、可愛がられていても案外遠い存在だったりするしなぁ
 先日小学生になったお孫さんたちを描いた『孫物語』も出版されたそうで、だとするとこれは『三匹のかいじゅう』の続編か!? おーこっちも読みたいぞうっ。


孫物語孫物語
(2015/04/21)
椎名 誠

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テーマ : 小説
ジャンル : 小説・文学

読んだ本#33~狼の一族~

 この異色作家短編集と奇想コレクションは、目に入っただけでもついつい手に取ってしまう
 今回読んだのはアンソロジー。知ってる作家もあれば知らない作家もあり、もっと読みたい人もいればこの人だけで一冊はツライなぁ、と正直に思う人もいたり。アンソロジーのテーマはアメリカ作家編、エンタメ中心だそうだ。

 狼の一族

狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇 (異色作家短篇集)狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇 (異色作家短篇集)
(2007/01/31)
フリッツ・ライバー、ジャック・リッチー 他

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テーマ : 海外小説・翻訳本
ジャンル : 小説・文学

D&D5e余話#71~D&D Encounters『Elemental Evil:Princes of the Apocalypes』第二回レポート~

 セイヤング!
 ドルイドとレンジャーの2レベルクラス特徴は1レベルに持ってきても問題じゃないかとつくづく思うのさアッフッフー!

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テーマ : TRPG
ジャンル : ゲーム

TRPGこぼれ話#233~回避型キャラクターの思い出?~

 前回の続き。
 ソード・ワールドではハードレザーと盾でそこそこ回避するファイターをよくやっていた。何故金属鎧でないかというと、そもそもチェインメイルすら着られない【筋力】の場合が少なくなかったからである。それでなんでファイターをやってるかというと、何度も使ってるネタだがそれでも敢えて言おう、ファイター以外ができない能力値だったからである。いや、中途半端にハードレザーで我慢するぐらいなら、いっそシーフで回すことを考えていた方が良かったかもしれない。戦闘外の活躍もグッと増えることだし。
 TRPGに触れた頃は……エルジェネシスで頑張って回避するキャラクターを作ろうとしたことがあったけど、結局全然達成値が出せなくて回避「できる」どまりで済ませるようになってしまった。多分読み込み不足。すぐにメインストリームから外れてしもうたしなぁ。てかあの時期のゲームで作ったキャラクターは、大体回避は「重視」じゃなくて「できる」程度だった。ドラゴンアームズとか。天羅も突き返しがあるんで回避した覚えないし。ブレカナではクリティカル万歳だけにかわせる目は十二分にあったが、ンなことするより攻撃能力で受けを宣言した方が遥かに手っ取り早かったのであった。《真撃》うめえ。
 ナイトウィザードは人狼とかなら意外とイケるんじゃない!? と思った事もありましたけど、高レベルモンスターのデータを見てみるとやっぱりそれどころじゃないような気がする。ばんばんマルチクラスすればどうにかなるのだろうか? いやむしろ出目をいじって《霧散》をしてこそあのゲームでは回避重視と言えるか!? 結局絶対命中魔法もあることだしやっぱりカニアーマーで耐えるキャラクターに落ち着くことに。もしくは勇者でプラーナぼりぼりして強引にかわす。もうコレ回避型じゃねえ。
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 ……とまあ、題名に? が入るぐらい回避型キャラクターってやってない。ホントにやってねえな。極端な出目が存在しづらい上記のゲームでさえこうも弱気なもんだから、1d20とかd100一発判定のゲームで回避重視キャラクターなんてとてもやる気になれませんて。言うても1d20とかd100一発判定のゲーム、それも回避判定の存在するゲームてそんなに遊んでませんが。d100はクトゥルフとウォーハンマーでやったが、1d20てーとファンタズム・アドベンチャーかボトムズTRPGぐらいのもんかどっちもプレイヤーで遊んだことねぇ
 メタリックガーディアンでは、ファンタズム級で久々に回避するキャラクターでも作ろうかしら……(しかもファンタズム級はカタめときておる)と思っていたけど、マシンザウルスとか他にも魅力的なガーディアンが増えてきた上に、最近は「ブレイクで1回死ねるんだから回避なんて気にせんでええやん」と俺の中のアビスエナジーが囁いてくるのであった。



メタリックガーディアンRPGメタリックガーディアンRPG
(2013/03/15)
藤田史人/F.E.A.R、林 啓太 他

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テーマ : TRPG
ジャンル : ゲーム

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銀河アズマ

Author:銀河アズマ
頑張りましょうと言えないのがとても残念です

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