未来から視差、そして愛へ
うち1枚はちょくちょく書いている頃に出ていたのであるが、それでも年に1枚というペースを考えると君のララミーの如く申し訳ない気持ちになりつつもおりゃ知らねえわからねえぜサルだからなと音頭に逃避してウッキーしたくもあり。
ともあれさすがに来年はもういいかな? という会話がメンバーの中でも浮かぶぐらい、毎年毎年本当に楽しませてもらいました。
Future!
前作『おまけのいちにち』のインタビューにて「『SHOW MUST GO ON』は豪華なゴールデンデラックス路線だったので、『おまけのいちにち』は肩の力を抜いていくことにした」とオーケンが語っていた。だから『SHOW MUST GO ON』が『西部警察』で、『おまけのいちにち』に『大都会のテーマ』なんだと。本当かどうかはわからない。俺は四割ぐらいの確率でいつものホラ話だと思う。
さておき、おいちゃんの封印曲をバンドアレンジに仕立てたりしてた『おまけのちにち』(『UFOと恋人の頃に近いとはよく言ったものである)より、さらに実験の度合いが強まったのは確かだろう。その昔オーケンがかましたショーケントレインのパロディというびみょうなパフォーマンスが元ネタと思われる『オーケントレイン』のようなよくわからない切り口の曲、久々のアコースティック曲『サイコキラーズ・ラブ』、猛烈な音数で溢れるメタル分を補充できる(でもこれ橘高さんではなくおいちゃん作曲)『ディオネア・フューチャー』というように、オーケイントレインの向かっているのは未来か来世か、デビュー30周年を目前にしてなおも若々しく路線を模索しているようだ。
もっとも変化球であっても落ち着いて聞けるのは筋少印の音色は守られていて、ほしがるファンのツボは押さえつつ探っているためであろうか。これを新鮮味が無いと批判する一部の声もあるようだが、最早再結成期間の方がそれ以前の活動より長くありつつある円熟のバンド、煮込まれた客との関係を維持しつつ攻めていくのも立派な処世術ではないだろうか。実際『ディオネア・フューチャー』は筋少楽曲投票企画でトップ10を軒並み再結成前の曲が占める、年季あるファンの強さを知らしめた中で大健闘し、ライブのラストソングの定番曲としてエディのコーラスとして受け容れられている。『タチムカウ』のセルフアンサーとでも言うべき『T2』も、ベテランバンドならではのお遊びか。
そんな中で、今でも『エニグマ』のような曲を作るのだから口が裂けても新鮮味が無いなんて言ってられない。オーケン曰くプログレは面倒で売れない音楽、サポートドラムの長谷川さんと2人して「変拍子とかホント嫌」と愚痴っているのにこんな超プログレ曲をよく作ってくるもんである(余談だが長谷川さんの好きな曲は『俺の罪』だそうだ。「歌詞がとてもいい」とのこと)。『T2』ならぬ『人間嫌いの歌パート2』とでも言うべき『告白』でもテルミンをぶわんぶわん吹かすし、今も筋少は攻めている。特にウッチーの変な事をしたい精神は。曲自体が普通の人間を夢見る人間モドキの歌であるし(あのフレーズは素晴らしい)。
よくわからないと言えば『わけあり物件』はパチスロのタイアップ曲だそうだ。わかるようでわからない組み合わせである。人間椅子に『ダイナマイト』を書いてもらうとか、他所の業界のやることはよくわからない。また『人から箱男』は「仕事帰りのサラリーマンがカラオケボックスで熱唱するような曲をお願いします」と発注されたそうで、「それ最初はデーモン閣下に頼む予定だった仕事なんじゃない」とオーケンは疑っていた。
『THE SHOW MUST GO ON』の『月に一度の天使』を皮切りに「うまくいかなかった恋愛を懐古する曲」、高齢ロックとでも言うべき楽曲がアルバムに1曲は入るようになっており、『別の星の物語り』に続く『3才の花嫁』はド直球のいい曲。アコースティックイベントでオーケン・おいちゃんが歌ったのを聞いた時からノックアウトされた、一発昏倒確実の必殺涙技だ。『フラッシュ・ゴードン』のワンフレーズが混じるお遊びまでシャレている(恥ずかしながら筆者は人に言われて知った)。
このアルバムでナンバーワンに推すのはインストゥルメンタルの『奇術師』。橘高さんの泣きのギターが泣きに泣きまくる、時間いっぱい泣きの箇所しかない、一大叙事詩である。橘高さんのデビュー30周年記念(25歳だけど)ライブの時に聞いた『THANK YOU』を思い出すこの泣きっぷり、首は振らずともメタル魂に震えて共振せよ。
ザ・シサ
シサとは何さ!? その答えは「視差」。未来に続くものが視差、これもわかるようなわからないような、だがひとつのSFである(そうか?)。
30周年を記念するアルバム、音楽としては意外にも筋少オーソドックスに仕上がっていると感じた。橘高さんのハードロック、ヘヴィメタル成分、おいちゃんのポップス成分、ウッチーのヘンテコ成分が正統派に発揮されている。30年の集大成という感じだろうか。おいちゃんの『I,頭屋』、橘高さんの『衝撃のアウトサイダー・アート』『ゾンビリバー~Row your boat』は実に手堅く締まった筋少ロックで安心してノれる。『衝撃のアウトサイダー・アート』は、初期のアルバムタイトル『アウトサイダー・アート』を冠している(このタイトルはオーケンミステリ文庫のアルバムに使用された)だけあって哀感溢れるまごうこと無き筋少印、橘高印の楽曲でシビれるのだ。そういえば最後の『パララックスの視差』のように、スンナリと終わらせずちょっと不思議な曲で〆るパターンが近年の筋少のトレンドなのであろうか(この路線は『ニルヴァナ』から始まっている)。
ちなみにオーケン曲はなし。そもそも『おまけのいちにち』以降、作曲にクレジットされていない。「弾き語りを始めて音楽のことが少しわかるようになったら作れなくなっちゃった」らしい。エディから「だからあんたは勉強しない方がいいって言ってたのにもったいない」と惜しまれていた(ちなみに特撮のナッキーも同じことを警告されていた)。
曲はオーソドックスでも作詞はいつも以上にキレてるのだが。一番ビックリしたのは『なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?』。おいちゃんが上げてきたとてつもなく健康な曲にこんな物騒な歌詞を乗せるのがさすがというかなんというか。その答えが「黒いスーツ着たりネクタイ締めたりするのが面倒だから」なのはもう、まいった。こういうトンチを書けるならアラフィフになったってまだまだ大丈夫だ。
それにMVを見てナンボの『オカルト』、歌手ならば一度は歌いたかった…というオーケン版ズンドコ節、野坂昭如大先生の怪曲『マリリン・モンロー・ノーリターン』のアンサーソング、『マリリン・モンロー・リターンズ』、この胡散臭さは近年でも上位に入る。アンサーソングという評価については首を傾げられたことがあるが、ノーリターンと歌われてたモンローが帰ってきた歌なのだからアンサーソングで文句あっか。ライブで演奏したら盛り上げるのがとてつもなく難しそう(同様の理由で『おまけのいちにち』の『S5040』もライブでは厳しいとか)であるが、確か発売記念ツアーで聞いた覚えがある。『マリリン・モンロー・ノーリターン』と『オーケンのズンドコ節』は2連発の構成でウッチーの手による濃厚な珍曲ぶりを満喫できる。一体何なんであろうかこのバンドは、と筋少に触れる度に繰り返されてきた哲学的思索をリフレインすることうけあいだ。
また『I,頭屋』の歌詞にある「崩御の日に鬼ごっこをした~」は橘高・本城両氏を迎えた筋少再スタートの時期で、まさに昭和天皇陛下崩御の年にボヨヨーンボヨヨーンと叫んでいたり俺にカレーを食わせろと要求していたりしていた。30周年ならではの歌詞である。『セレブレーションの視差』の「猫に見えているものは実は一斤のパンかもしれない、悲しみに見えるものも本当は幸せなのかもしれない」は特撮の『ケテルビー』であり、ファンならばすぐにピンと来たことであろう。こうしたお遊びも興味深い。
しかしまあ30年やってきた記念アルバムのリード曲が『オカルト』なのはそれらしいというか、なんというか。久しぶりにオーケンのボースカ声も耳にした。にしても人類、滅び過ぎ。
LOVE
未来に視差を一つ加えた結果が、愛。
もっとも、歌詞はうまくいかなかった愛の歌ばっかりなのであるが。歌謡曲テイストの歌が多いこのアルバム、歌謡曲ってやたらと挫折や別れの歌が多いし、よく合ってる(全体のコンセプトに「男はだめだ、女はわからん」があるとか)。
売り文句は「20枚目オリジナル名盤」であるが、オレは迷盤、怪盤の類であると思う。もちろん、いい意味で。
30周年記念の『ザ・シサ』が先述の通り手堅くまとまっているのに対し、31年目の『LOVE』はガタッと崩してきた。リード曲が『ボーン・イン・うぐいす谷』なのは象徴的であり、( ゚ω゚)んんんー? と思ったのをよく覚えている。アルバム名『LOVE』でうぐいす谷かぁ。確かにラブホテル街ではあるけれど(北口を出てすぐのマクドナルドがホモの逢引きスポットらしい)。いや、現実の鶯谷とは違う架空のうぐいす谷であったか。ちなみにエディは『直撃カマキリ拳! 人間爆発』がそうだと思ったらしい。いや、それはそれでどうなんだ。一曲目の『愛は陽炎』以降、変な曲しかないぞこのアルバム。
そして変な曲というと圧倒的にウッチー曲が強い。正統派のかっちょいい『愛は陽炎』が終わってすぐに、「後の祭り」という単語から『from now』というタイトルに全然似合わないワッショイワッショイコールがいきなり始まって貴様のハートはワシ掴みだ。『Futurre!』以後定番のインストゥルメンタル・オリジナル曲は今回ウッチーが担当し、『ベニスに死す~LOVE』でおどろおどろしくも荘厳な世界を奏でている。さすがはエディ・長谷川さんとのベース・ピアノ・ドラムで構成されるThunder You Poison Viperでならした腕前だ。余談だけどこのバンド名は毒蝮三太夫に由来すると知ったのは、ライブを聞きに行ってからだいぶ過ぎてだったりする。『You!』は名盤なので買ってアニメ『戦闘妖精雪風』のアレンジ、『Engage』を聞くように(アニメ版はエディが音楽に参加していた)。
ウッチー曲の白眉は『ドンマイ酒場』、これで決まり。お酒が飲めないウッチーが藤子Aテイストの酒場を想像しながら作ったというこの曲、ライブバージョンではメンバーの掛け合いの演出がさらにパワーアップしており、これを聞いてナンボ。是非ともライブ映像を商品化してほしいものだ。それに、オーケンが別口で歌ったソロバージョンの歌詞がまた凄まじい。「人殺しなんて大したことじゃありませんよ、テレビで毎日やってるじゃないですか」これにはギクッとした。こちらも何らかの形で収録してほしい。
おいちゃんも今回、結構変な曲を作っている(『ボーン・イン・うぐいす谷』からしてそうだけど)。曲の入りのパパパパッパパパパパッパ~が印象的な『ハリウッドスター』、後半の怒涛の盛り上がりながら、物凄く後ろ向きな歌詞に物凄く力強いコーラスが乗るのが好きだ。ヘーイ! じゃねえよ!(余談ながら今回妙な曲の割にサラッとしてるタイトルが多い気がする。『from now』『ハリウッドスター』『妄想防衛軍』『Falling out of love』がそれ)
だいたい筋少の曲は先に音ができて後から詩が乗るものが多いそうで、今回詩先は『ボーン・イン・うぐいす谷』だけだそうだが、『直撃カマキリ拳! 人間爆発』についてはどうも怪しいと筆者は睨んでいる。おいちゃんの軽音魂が触発されて書いたノリノリのロックンロールに、「イントロがカンフー映画っぽい」というだけでなんであんな歌詞が書けるんだよ! しかも直撃してないじゃん。「人間爆破のツボあって、それ押した♪」の後の「んじゃお前は」がこぼれまくってるし。『直撃地獄拳 大逆転』を見ていたせいで、最後の老師との掛け合いは千葉真一とアラカンがやってる様をつい想像してしまう。
歌謡曲テイストを決定づける、実質最後のボーカル曲(最後はポエトリーリーディングなので)『喝采よ! 喝采よ!』は、まさに往年の歌謡曲の歌詞なのだけれど、実に筋少であり筋少でなければできない曲で、愛の行き着いた先がこれか、と唸らされる。最初に触れたとおり、やたらと失恋と挫折と破局が多い歌謡曲、そういう聞いてると死にたくなってくるような曲のファンである筆者にはもうたまんない。
オーケンミステリ文庫のMVが『ぽえむ』であったように、『LOVE』の最後はポエトリーリーディングの『Falling out of love』。オーケンがやってみたかったと語っていたテーマで、30年過ぎてなお意欲が尽きない筋少からはまだまだ目が離せそうにない。なお、この曲もいつもの筋少の演奏だと爆音一発ですべて吹き飛んでしまうという理由でライブではやらないそうである。合掌。